娘の初恋

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 娘が小児癌だと発覚したのは、二歳の誕生日を迎える二週間前。  微熱が続き、軽い気持ちで近所の診療所に受診したのが、全ての始まりだった。  腹部に腫瘍があると総合病院を紹介され、検査の結果癌だと宣告を受けた。  主人は娘が一歳の頃に労災事故で亡くなり、やっと立ち直って。母一人、子一人で生きていこうと思っていた矢先の出来事だった。  私には実家はなく、相談出来る両親もいない。  もうあの人は亡くなっているのだから、義両親は頼れない。  つまりこれから、娘のことは私が全て決断しなければならない。  病状説明を受けている中、その現実に直面し震えが止まらなかった。  幸い手術を無事に終え、癌細胞を切除することは出来た。  しかしこれで治療は終わりではなく、化学療法に抗がん剤治療が待っていた。  副作用に、熱発、嘔吐、下痢。そして脱毛。  娘は生まれた時は髪がなく、やっと生え揃ってきたと喜んでいたのに、そんな気持ちとは関係なく抜けていく。  何度も説明を受けていたが、直面した現実はあまりにも残酷で。夜、娘が寝た後に病院のトイレで泣いていた。  どうしてもっと早く、病院に連れて行かなかったのだろう。  どうして丈夫に、産んであげれなかったのだろう。  今までの行動を振り返り、後悔を繰り返す日々。  戻れない過去より、今の娘と向き合わなければならない。  理屈では分かっていたが、ただ傍観していることしか出来ない私は、考えることを止められなかった。
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