娘の初恋

5/13
前へ
/13ページ
次へ
 しかし現実はあまりにも残酷で、その願いは叶わなかった。  中学一年の秋。  娘は微熱を繰り返し、寝込むことが増えた。  元々の体質から小学生の頃にはよく発熱しており、初めは再発かと怯え検査結果が出るまで生きた心地がしない日々を過ごしていた。  しかし最近は、「体質だから」と自身を宥められるようになっていた。  仕事帰りに眠っている娘の部屋に行くが、やはり熱は下がっておらず、「はぁはぁ」と苦しそうな息遣いをしている。 「あ、おかえり」  そう言い娘は体を起こそうとしたがフラつき、慌てて支える。  一体、どうしてしまったのか?  高学年ぐらいからは体も丈夫になっていき、月に一度ぐらいだったのに、頻回に繰り返すなんて。  ドクン。  その考えに至った時、私の心臓が嫌な音を鳴らしてきた。  あれ? この微熱? あの時と、同じじゃない?  小児癌が発覚した、あの時と。  気付けば私の体はガタガタと震え始めていて、それを目の当たりにした娘は、何かを口にしようとしていた。 「明日、病院に行こう」  私は慌てて娘の口を塞いだ。  そうでないと、聞きたくない言葉を聞いてしまいそうで。そしたらまた、娘の前で泣いてしまいそうで。    だけど、それはもうしないと決めている。もし次があれば、その時は娘の結婚式。それ以外は認めない。  次の日。かかりつけの病院に受診し、微熱が続いていることを相談した。  すると医師は明らかに表情を変え、精密検査を受けることになった。  違う。違うよね? そんなわけ……。  だってあれから六年経っているし、定期検査もかかさず受けてきた。今更、そんなわけ。  しかしそんな願いは、どこまでも通じず。  再発が確認された。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加