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「え?」   何?  何を言っているのだろう?  美香はしばし呆然とした。  今、この人は何と言った?  パニックルームに入れる?  誰を?   母親を?  なぜ?  美香の狼狽を感じたのか、老婦人が笑って言った。 「しょうがないわ。ああなっては。落ち着くまで、2、3日パニックルームに入れておきましょう」  美香はその瞬間、全てを悟った。  この街におけるパニックルームとは、緊急時の避難先ではない。    昔の親が、悪さをした子供をお仕置きで押し入れに閉じ込めるように。  精神病院が、暴れる患者を個室に閉じ込めるように。  自分の身体を抑えているのも、この街のなかでパニックを起こして取り乱してほしくないからなのだ。  そうすることで、この街は平穏と静けさを保ってきたのだ。  もちろん、業者がそのような目的でパニックルームを設置したわけがない。街の住人が勝手にそうしてしまったのだ。 「うちのパニックルームが空いてるから使うといい」  誰かが言った。 「じゃあ、病院から戻ってまだ落ち着いてなかったら……」 「いや、もう今入れちゃった方がいいんじゃないかい? あれだけ喚いてちゃ、お巡りさんも大変だろう」  まるで井戸端会議でもするような悠長な会話のテンポのなかで、美香は早く救急車が子供と母親を運んでくれるよう、ただそれだけを願った。  母親の絶叫だけが、あまりの空気を震わせていた。                                                                           Fin
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