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2.勇者
――エディは、魔王に滅ぼされた亡国の王だった。魔王を倒すため、帝国の助力を必要としに交渉の席に臨んだ時、帝王は婚姻の適齢期ながら独り身のエディを気に入っていたようだった。
見返りにとエディとの婚姻を求める帝国に、やんわりと魔王討伐を成し遂げるまではと断る彼を見て、リナはその“いつか”は来る、と悟っていたのだ。
「だからリナ、俺と結婚しないか?」
でも、アーノルドのこの言葉は予想していなかった。
「え?」
勇者のアーノルドには誰もが心を許す。その油断のうちに今度は弱みを握り、最終的には抜けない蜘蛛の糸ように彼は心を絡みとってしまう。
「リナ、立って」
突然の言葉に、顔をあげると彼が首を傾げながら、リナに手を差し出している。土に汚れた手を差し出すのが躊躇われて見上げていたら、彼はそのまま手を伸ばしリナを引き上げる。
そして、皆が言うところの、三段論法ならぬ三段籠絡法を使い、とろけるような笑みでアーノルドはリナの手を掴んだまま反対に片膝をついた。
「魔王が死に、皆はもう前に進み始めている」
「……」
「でも、リナ。君はまだ進んでいない」
「――ここが、私の居場所よ」
「君は一人じゃいけないよ。一緒にここをでよう」
「何を言ってるの? なんの冗談?」
アーノルドは首を傾げた。
「結婚を申し込んでいるんだ」
「――笑わせようとしてるの? 受けるわけないじゃない」
「そうかな? リナは森を閉じなかった。話を聞いてくれた時点で答えをもらったようなものだけど」
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