ペリカンちゃんの魅惑

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「っパイ!っパァイ!」  竹内は私の事を『パイ』と呼ぶ。  そしてこんな事をわざわざ書くのもアレだが、私はパイではない。 「っパァイ!匿って下っさぃよぉ!」  したがって、応えてやる必要などない。 「頼んます!助けて下っさぃよぉ!」  竹内は独特のイントネーションで喋る。本人はもう都会っ子の様な顔をしているが、上京から二年でも、まだまだオノボリさんのようだ。 「ヤベェんすよあの女ぁ!」  うーん、おとなりに迷惑か。  しかたがない。諦めてドアの鍵を開けてやる。 「っパアアアイっ!やっぱいんじゃないっすかあああ!」  ひどぃんだからなぁもー、とか言いながら、閉められないようドアの隙間に身体をねじ込んでくる竹内。  パーマで金髪、細身で長身、甘いマスクと耳には四つのピアス。  ダメージジーンズ、赤いシャツに◯ン肉マンのスカジャン。  オタクの私とは一生関わりあう事もなさそうな風貌をしたその男は「頼んますよぉ」と半べそをかいていた。 「ね!?ね!?匿って!」 「うるせぇよ、帰れよ」 「オレ困ってんすよおおお!」  叫びつつも脱いだ靴はキチンと揃える竹内。そして来客用のスリッパを下駄箱から出して勝手に履く。 「声でけぇよ。ていうか帰れよ、いそがしいんだよ」 「またまたぁ」  ずかずかと先行して私の部屋に入っていく竹内なにこいつマジ竹内。 「いや締め切り…」 「っぱぁぃ……これ…」  そんな図体も態度もデカい竹内が、なぜ私の様なチビメガネ芋ジャージを『パイ』などと慕うのか。 「ごっキュン天使ペリカンちゃんの高校制服ver.フィギュアじゃないっすかああああ!!!」  チンピラはガワだけだからである。  ヤベエエエエ、とか言いながら這いつくばり必死にペリカンちゃんのスカートの中を覗いている竹内のケツを蹴りとばす。 「おい!ドアの前でしゃがんでんじゃねぇよ!除けっ!入れねぇ!」 「やべぇ!やべぇよコレ!やっべぇ!」 「やべぇのはオマエの頭だこのっ!」  大興奮の竹内を踏み付けて退かし、窓際の椅子に座る。湯呑みからお茶を一口。口を湿らせてからまだ這いつくばってる竹内に「触んなよ?」と一応注意する。 「で、なんなんだよ?」 「……ん、なんすか?」  もう一回ケリを入れたくなるところをぐっと堪えて「女」と短く答える。 「匿ってくれって、オマエがさっき言ったんだろ」 「あぁそっす!頼んます!」  マジで忘れてたのか。じゃあそのまま帰ってくれよ。 「彼女?」 「うす。今の女なんすけど…」  思い出した途端、竹内の顔はみるみる青ざめる。 「アイツ、ろくろ首だったんすよ…」  そう言って、デカい身体をぶるりと揺らした。
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