半年後

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半年後

領地から王都に半年ぶりに帰ってみると、屋敷にはマーガレット嬢が住み着いていた。 「ロザリア様、あの女がタウンハウスに我が物顔で出入りしています。このままでは奥様に成り代わって、いつかこの屋敷は乗っ取られてしまいます」 サリーがたまりかねた様子で、私の元へ駆け寄ってくる。 客室にしていた部屋に個人的な荷物が運び込まれ、彼女専用のメイドが雇われていた。 愛人としてビクターが彼女を呼び寄せたようだ。 新しいメイドまで雇ったのね。 誰の許可を得てそんな事をしているのかしら。 「このメイドには誰が給金を支払っているのかしら?」 「ビクター様が、タウンハウスの予算から出すように仰せです」 「そう」 マーガレット嬢は、この屋敷にやって来てから、ビクターと夜を過ごしているようだ。 「ビクター様とお話になられたほうがいいかと思います」 エラは縋るような目で私を見る。 使用人たちは私に言いたいことが沢山あるようだ。 「そうね」 私はビクターと話をしに彼の部屋へ向かった。 「マーガレット様という方が屋敷にお住まいだとか?」 彼は悪びれる様子もなく、女主人が留守にしているから彼女を呼んだと言う。 タウンハウスを取り仕切る者がいないから、代わりに手伝いに来てもらっているらしい。 私の代わりが務まるのかしら。 「君とはもう随分夜の営みもない。分かっているだろうが、貴族が愛人を囲う事は普通の事だからね。ロザリアは領地の仕事で忙しいだろう。そのまま領地で義父の介護を頑張ってくれていい。王都の屋敷の事は任せてくれ。何の心配もいらないよ」 「ええ」 「勿論、私が伯爵を継いでも、君には第一夫人として、シェノア領を任せるつもりだ」 「そうですか」 「ああ。義父が亡くなっても、ここは君の家だ。今まで通り領主の片腕として領民たちの為手腕を発揮してくれ。それが義父の望みでもあるからね」 「なるほど」 私は感情を表に出さない淑女の表情で返事をした。 お父様の病状は聞かないのだろうか。 彼は父の心配なんてしていないのだろう。 小康状態だとはいえ、お父様はちゃんと生きている。 「執務室へ参りますね。マルコといろいろ話さなければならないので」 マルコに経理は一任している。 資金の流れなどを一番把握しているのは彼だろう。 「なら、私も行こう」 私は彼の顔を見て頷いた。 心の中は怒りを通り越して、呆れに近い感情になっていた。 貴方が愛人に使っているお金は全て、私の父が作ってきた物なのよ。 きっとそんな事は少しも考えていないのね。残念な人だ。 「このような使途不明金があると、予算を増額はできません。何に使われたかが分からないような物にお金は支払えませんから」 帳簿を確認しながらビクターに言った。 王都のタウンハウスに私が住んでいないとなれば、使われる予算も少なくて済むはずだ。 「それは無理だよ。使用人が足りていない」 「では、旦那様の予算からその代金は算出して下さい」 領収書のあるもの以外は受け付けないよう、厳しくマルコには言い渡している。 「貴族としての体裁を考えれば、これぐらいは必要だ。私が当主になればこの倍は使うと思うよ。今はまだ安い物だ」 言い訳だけは一人前なのね。 「伯爵にちゃんと見せなければいけませんので。父はまだ頭はしっかりしていますからね」 「まぁ、そうは言っても、もう少しの間だけだろう」 「そうですね。もうしばらくは父がまだ伯爵ですから。旦那様も贅沢や派手な事はお控え下さい。当主が病で苦しんでいる時に遊び歩いている事が知れれば、社交界でも良いように噂されませんしね」 「ああ。そうだな。しばらくは大人しくしておこう。私も義父のことは心を痛めているからね。何より孫の顔を見たいだろう。子供の事もちゃんと考えなくてはならないしね」 「そうですね」 ビクターが執務室から出て行った。 「あらぁ、ロザリア様。初めましてですね」 ビクターの愛人、浮気相手のマーガレット嬢がノックもせずに執務室にやって来る。 「そうね。マーガレット様でしょうか?」 「ええ。そですわ。ねぇ、ロザリア様からマルコに言って下さらない?新しいドレスを頼んでいるのに予算を出してくれないの」 「そうですか」 「ビクターのお世話をしているのは私なのに。ほんと分かってないんだから!」 「ビクターのお世話?」 「そう。だって、奥様が相手をして下さらないから、ビクターの面倒は私が見ているでしょう?その苦労っていうのを分かってないのよね、ここの執事は」 「お世話とはどういった物なのでしょう?」 「まぁ、なんていうのかしら……愛人にも手当っていう物があるじゃない?日陰者の立場で我慢してあげてるんだから、それ相応の見返りっていうか?そういうのあって当然じゃない」 なるほど。 「愛人の方なのですね。それは私が認めていると思ってらっしゃるという事ですか?」 「え!だって、ビクターはこの屋敷の当主でしょう?伯爵なんだから一番偉いじゃない。奥様がどう言おうが、彼が決めた事に文句は言えないでしょう?」 「ああ。なるほど」 「貴族は誰だって浮気しているでしょ?してない人の方が少ないわ。男性に限らずよ。夫婦それぞれ、お互い恋人がいるもんでしょう?社交界なんて遊び相手を探すための場所なんだから」 「そうなんですね。当たり前のことなんですね?それなら文句は言えませんね」 そうなのね。 私は作り物の笑顔を返した。
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