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最終話
マナーハウスの貴族牢に入れられたビクターは重ねられた書類に目を通していた。
「いったいどういう事だ……」
私はライオネル公子と共にビクターのいる部屋へ行った。
「書類に不備はありません。私の子、ミカエルがシェノア伯爵になりました」
「そんな子供俺は認めない!」
「はい。そうでしょう。ですのでこちらの離婚届にサインをお願いします」
「なぜ、離婚という話になるんだ?離婚はしない」
「かまわないが、そうなると面倒な事になるぞ?裁判費用も嵩むだろうし、慰謝料は君が一生働いても支払えない額になる」
今まで使った物が事細かに記された帳簿をビクターの前に差し出した。
「浮気相手のドレス代など、シェノア伯爵が払うはずがなかろう。少し考えればわかるはずだ。離婚の理由は君の浮気だ。浮気と散財、伯爵家に多大な損出を与えた。離婚した後その代金の請求が来たら君は一生鉱山で働くことになる。勿論、君の実家の伯爵家が代わりに支払ってくれてもいいが、あそこは今困窮しているようだ。三男の尻拭いなど断られるだろうな」
「何故、そ、そんな事を言うのなら、ロザリア!君だって浮気したんだろう!子供を産んだならば完全な浮気だ!俺には覚えがないからな!」
「証拠は?あります?」
「は?」
「貴方の浮気の証拠は山ほどありますが、私の浮気の証拠って?あります?」
「な、なんだとぉ!」
「離婚届にサインをしないのなら、この請求書がそのまま慰謝料に上乗せされますけど?大丈夫ですか?裁判の費用まで払わなければなりませんし。貴方にそんなお金ありますか?」
「私は君とは離婚しない!」
「どうぞご自由に」
「王都のタウンハウスは売りに出されます。本日中に中の荷物は全て競売にかけられます。使用人たちはマルコが新しい勤め先を紹介しましたので、一人も残っていないでしょう」
「ああ。あの屋敷はもう使わないだろう。それと、今日の朝刊に君たちの不倫の記事が出るからね。社交界には顔を出せないと思うよ」
「離婚すれば貴方は無爵ですから、平民ですね」
ビクターの浮気の証拠は、タウンハウスにいる使用人たちが、髪の毛一本まで拾い集めて詳細に報告してくれている。
領収書も全てが浮気と散財の証拠だ。
伯爵になるのだからと、貴族令息たちから借金までしていたようだ。そうなれば詐称の罪まで負う事になるだろう。
ビクター貴方は終わりよ。
「君、知っているかどうか分からないけど、私はこう見えても王家の血を引いている。君より位は上だ。それに彼女の叔母は公爵夫人だよ。逆らわない方が身のためだけどね」
「あなた一人消す事なんて、私には造作無い事ですわ」
階段を威厳のある足取りで降りてきたのは叔母様だった。
「叔母様!」
それは脅しというか……消すとは穏やかでない。
「何を驚いているのロザリア。貴方たち親子の安全を考えれば、彼をここで始末するのが一番手っ取り早い方法ですのよ」
ビクターの顔は青ざめている。そしてわなわなと震えだした。
「大人しくサインすれば、まぁ、王都までの馬車くらいは出してやろう。マーガレット嬢が待っているだろう。多分屋敷を追い出されているから、門の前で拾ってやればいい」
「少し……少し時間をくれ。少しだけ、考えさせてくれ」
泣き声で懇願するビクターに冷ややかな視線を向け、低い声でライオネル公子が告げる。
「あぁ、それは無理だな。我々も忙しい」
ビクターは膝から崩れ落ち頭を抱えて床に座り込んだ。
私は彼の傍まで近づくと、ゆっくりこう言った。
「貴族の不倫は、当たり前のことだって言っていたわよね?それはね、入り婿が使う言葉じゃないのよ」
完
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