理論物理学者の話

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理論物理学者の話

 そうですね。最初にその話を聞いたときは何の冗談かと思いましたよ。もしかして今日は4月1日だったんじゃあないかと思ってカレンダーを見直したほどにね。  でも違った。ええ、はっきり覚えています。その日は雪の降る12月11日でした。ちょうど娘の誕生日でね、プレゼントを入れた紙袋を机に置いていた光景がはっきりと思い出せます。  いったい誰が信じると思います?  『地球が軽くなっている』と聞いて。そんな馬鹿な、って誰でも一笑に付すでしょうね。私だって『おいおい、新しい陰謀論か?』って笑いましたから。  しかし、それは陰謀論とは違うものでした。  陰謀論とは推測と思い込み、そして捏造によるただの噂話に過ぎません。根拠のある証拠がでてこないんです。  でのは違った。膨大なデータが示されていた。世界中で検証が始められていた。  そして、誰もそれを科学的に否定できなかった。  そうですね。例えは悪いかも知れませんがイエティみたいなものです。『そんなものは存在しない』と誰も証明できなかった。でも『足跡』は次々と見つかってゆく。そんな不気味さがあった。  いや、理論的に説明をつけることは可能だと思っています。  そもそもアイザック・ニュートンが発見した『重力』または『引力』と呼ばれるものの正体は、アルバート・アインシュタインによって『空間の歪み』だと説明されています。ええ、かの有名な一般相対性理論によってです。  このとき、質量によって空間が歪むという現象は、まあ何となく理解できます。プールにビーチボールを投げ込むと周りの水が押しのけられるでしょ? それと同じです。  そして周りの水が戻ってきてビーチボールは浮き上がる……。ね、想像できるでしょ。  面白いのは、この宇宙空間にはプールのような『枠』が存在しないことです。なので『押しのけられた空間』はそのまま宇宙の深遠まで伸びていくなんです。でも実際はそうはならない。  そうです、押された『空間』は押し込もうとする天体が公転などによっていなくなると『すぐ元に戻る』。  この、『空間が元に戻る力』。言い換えるなら『天体を押し返す力』こそ、重力の正体なのです。  では『それが弱くなる』とはどういうことか。簡単な答えがひとつだけあります。  地球の……太陽系の周囲に『空間を押し返してくれる天体』が少しづつ少なくなっているという可能性です。    分かりますか? 地球の周りの『空間が伸びている』ということについて。
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