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「分かりました。お出かけしましょう。」
私がそう言うと、父は分かりやすく顔を緩めた。ホッとしているかのようにも見える。でも、そんな父とは反対に私は焦っていた。母になんと伝えるかだ。母は父には無関心だが、私の事になると過保護になる。それこそ、私が転んだだけで救急車を呼ぼうとするほどには。それに気づいたのか、父は
「私から母さんには言っておこう。」
微笑んでお礼を言った。
ーーまるでそれは、椿のように美しく妖美な微笑みだったという。ーー
ああ、なんて愚かなのだろうか。あの時、父の誘いを断っていればこんなことにはならなかったのかもしれない。目の裏に焼き付く真っ赤な椿のような血と、雪のように冷たくなったこの世で最も憎く、愛しているあの人を思い出した。
「安心して下さい。私もそろそろそちらへ向かいます。」
窓際の椿に向かって話しかけ、真っ赤な花弁をさらに赤く色づけた。"今は"まだ、その時ではない。ゆっくりゆっくり準備をしてひと思いにこの白い部屋を赤く染めあげるのだ。そうすれば、貴方が好きだった椿のようなところで、貴方に再会できるでしょう?歪な微笑みと共に彼女は深く深く眠りについた。
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