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椿姫
朝、目を覚まして着替えをする。外を見ると、雪が降っている。ししおどしが、カンッといい音を鳴らした。ハァと息を吐くと、それが白く変わる。ここだけ別世界のようだ。
「椿。居間においで。」
父が私を呼ぶ。さほど急ぎもせず、着物姿で居間に向かった。途中渡り廊下から見える池には鯉に餌をあげている母を見かけた。
「母様。外は寒いでしょう?中に入りましょう?」
私が声をかけると、ちらりと此方を見たが、目線を戻して一言。
「椿、おいで。」
仕方なくに母の所へと足を進めた。まださほど雪が積もっていないからか、はたまた草履を履いているからか、足は濡れなかった。
「母様。何か御用でしょうか?」
母は目線を鯉に向けたまま、ぽつりと一言零した。
「椿、気負い過ぎてはいけないよ。」
大方父に聞こえないようにするためだろう。父は厳しい人だ。その分やれば褒めてくれるし、遊びにも連れて行ってくれる。ただ、"少し"厳しいだけなのだ。
「…お気遣いありがとうございます。母様。」
では、父様に呼ばれていますので、と私はそこを後にした。父と母は、お世辞にも仲が良いとは言えない。政略結婚なので致し方ない所もあるが娘の身としてはもう少し仲を深めて貰いたいところではある。
「椿。遅かったな。」
父が少し眉間に皺を寄せて言った。
「ええ、少し母様とお話しておりました。」
私がそう言うと、少し複雑そうな顔をした。そんな顔をするくらいなら仲良くすればいいのにと思ってしまうのは仕方がないと思う。「まあ、いい。椿、明日から三日間私と少し出掛けないか?」
用事があるならいいのだが…と、付け加えて私に言ってきた。母は行くのだろうか?いや、多分行かないだろう。例え、誘われたとしても。いつもそうだ。母は父に無頓着すぎる。それは、父も同じか。
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