ななちゃんのシンデレラ

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 「輝くんだ、いっしゅんでも。必ず見つけてもらうんだ、ガラスのくつには迷子にならずにシンデレラにたどり着ける魔法の羽根がついてるから、きっとだいじょうぶ。」 小学校一年生のななちゃんの読書感想文はこの書き出しで始まりました。童話を読んで絵と読書感想文を書く授業。女の子のほとんどがシンデレラのドレスの絵を描く中、ななちゃんはカボチャの馬車を夜十二時直前の時計に見立てて、その上に魔法の羽根がついたガラスの靴を天使の翼のように描きました。 93234194-6d92-4b4b-ae5f-1eff45959614 「くつだけだと王子さまはシンデレラがどの人だかじしんが持てません。りゆうはすその長いドレスで隠れたくつは王子さまからは見えないからです。 だからシンデレラは、ねんにはねんを入れてわざとイヤリングも一緒におしろに落としていきました。必ず王子さまと再会できるように。シンデレラはなかなかあざといと思います。くつを落としたら拾うべきだし、魔法が解ける十二時前ギリギリに帰るのは、十分前行動が出来てないから大人としてどうかと思います。 王子さまはシンデレラが他の男の人とダンスをおどれないように、シンデレラとおどったあとにおしろに飾られたバラを花束にしてプレゼントしました。薔薇の花束で手がふさがったシンデレラは他の男の人とダンスが出来ません。王子さまはそくばくをする、ちょっとしっと深いタイプかもしれません。 その前に、聞いても奥ゆかしく名前を名乗らないシンデレラとダンスをおどるのは、王子として、ききいしきにかけています。もしもシンデレラがけいびのすきをついてまぎれこんだしかくだったら、王子さまの命が危ないのにごえいものんびりしすぎです。 それから、シンデレラを探すために片方だけ落としたガラスの靴を持って探すのは効率が悪いです。税金の無駄遣い。 シンデレラと同じくつのサイズの人が何人も私こそがシンデレラだとウソをついて国中が大パニックになりました。玉の輿のチャンスを逃すまいと娘も親も必死なのです。 ただ、王子さまはシンデレラのアップに結い上げた髪の耳元で揺れていたイヤリングをよく覚えていて、ぶとうかいで身に付けたイヤリングを持ってくるように命じました。国中から105人の自称シンデレラが集まりイヤリングを順番に王子さまに見せました。 本物のシンデレラと同じイヤリングの人が10人残りました。そのイヤリングは王都で人気のデザイナーによる作品で同じ物が複数出回っていました。王子さまは困ってしまいます。ぶとうかいでたくさんの女性とダンスをしたので誰がシンデレラなのかわかりません。人の顔を覚えるのが苦手な王子さま。 王子さまは思いつきました。王家のバラは人への贈り物以外は門外不出の特別な薔薇です。本物のシンデレラには薔薇の花束を渡したので、ドライフラワーにでもして家で飾ってくれているのではないか。薔薇を持ってくるように改めて命じました。ところが王家の薔薇のドライフラワーを持ってきたシンデレラが三人もいたのです。三人のうち二人はシンデレラが王子さまから薔薇の花束をもらったのを見て、大広間に飾られていた薔薇を、賑やかなぶとうかいのどさくさに紛れて盗んだのです。 さて、困りました。本物のシンデレラをどうやって見分けるか。一人のシンデレラがバッグから折り畳んだリボンを取り出しました。そのリボンは王子さまがシンデレラにこっそり耳打ちして好きな色を聞いたのです。赤い薔薇の花束に淡いピンクのリボン。王子さまはそのピンクのリボンに走り書きで『愛してる』と書きました。見間違えるはずもありません。自分の羽根ペンの筆跡。王子さまは無事シンデレラと再会を果たしました。 王子さまとシンデレラが手を取り合って見つめ合うと、不思議なことにシンデレラのガラスのくつは、役目はもう果たし終わったとばかりに、かかととかかとを合わせて白鳥のように優雅に羽ばたいて空へ帰って行きました。シンデレラと王子さまは愛し合う幸せより、お互いしたたかに計算した上で結婚して国は豊かになり栄えました。愛と幸せで終わるシンデレラの話よりこういうシビアな話が私は好きです」 ななちゃんの想像力の豊かさを先生は褒めてくれましたが、読書感想文でなく物語を作っているから、ななちゃんはクラスで一番にはなれませんでした。自分が読書感想文で一番になれると思っていたななちゃんは、頭が真っ白になりパニックに陥りました。絵は下手だけどお話の中身には自信があったのにどうして? ななちゃんはがっかりしたまま学校から帰りました。お母さんにシンデレラの読書感想文を見せます。ななちゃんのお母さんはななちゃんを優しく諭します。 「ななちゃんが大人過ぎるから先生も慌てたんだよ。こんなに毒のある裏設定みたいなシンデレラを読まされたら普通の大人はパニックになる。クラスで読書感想文で一番になりたいなら、ななちゃんが先生に合わせて先生が好きそうな作文を書いてあげればいい。でもね、クラスで一番になることより大切なことがある。読んだ人が忘れられない文章を書く方が難しい。ななちゃんはよく頑張ったから先生はこのシンデレラを絶対忘れないとお母さんは思うよ。それでいいんじゃないかな?」 ななちゃんはちょっと考えてから頷きました。 「うん、よく考えてみたら記録に残るより記憶に残る方が難しい。ななは先生の記憶に残るシンデレラを書いたから一番じゃなくていいや」 「ななちゃんのお話はお母さんにとって一番の記録だし記憶にも残ってるよ。ななちゃん、いつかお話を書く人になったら?」 「うん、いつか絶対になる。あのとき見る目がなかったって先生が悔しがる所を見たいから」 「ななちゃん?ちょっと執念深いよ?」 「負ける悔しさは成功の糧だもん」 「悔しさをバネに頑張ってね。とりあえず宿題は?終わった?」 「宿題はすぐ終わらせるよ。本を一杯読んでお話を書くための勉強したいから」 「前向きでいいね。いつもは宿題をギリギリまでやらずに朝パニックになってやるのに」 「やる気になると強いもん、私は」 ななちゃんは宿題のドリルを開いて熱心に解き始める。お母さんはなちゃんを愛おしそうに見つめていた。親バカだけどお話本当に面白かった。この子は本当にお話を書く人に将来なれるかもしれない。お母さんはななちゃんのシンデレラを読み返していた。 (了)
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