救世主

8/8
前へ
/21ページ
次へ
 ……いや、ポカンとしてる場合じゃない。何はさておき、今すべきは―― 「……あの、ありが――」 「……服」 「……へっ?」 「……まあ、とりあえず穿けよ、下。外、出てるから」 「……あっ、ごめん!」  感謝を告げようとするも、僕の言葉を遮る形でそう口にする瀬那(せな)くん。……うん、今更ながら……ほんと、顔から火が出そう。……だけども、 「……あの、瀬那くん。その、外には出なくて良いから……その、後ろだけ向いて頂けると……」 「……そっか、分かった」  扉の方へと向かっていく瀬那くんに、たどたどしくもそう伝える僕。そして、さっと下着、そしてズボンを上げもう良いよと伝える。すると、ゆっくりと振り向きこちらへ近づいてくる瀬那くん。そして―― 「……悪いな、遅くなって。大丈夫か?」 「……あ」  ついさっきとは打って変わって、穏やかな微笑で尋ねる瀬那くん。僕の良く知る、あの優しい微笑で。そんな彼に対し、僕は―― 「……うっ、ゔっ、ゔあああああああああああああああああああぁ!!!!」  堰を切ったように、みっともなく瀬那くんへと縋り付く僕。ありがとう……そう言いたいのに、言わなきゃ駄目なのに……どうしても、今は言葉にならなくて。それでも……そんな情けない僕に何も言わず、ただ優しく包んでくれていた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加