汎愛殿下が私を溺愛するまでの三日間

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 私が陛下と顔を合わせたのは結局、結婚式でキスした時が最後となっていた。  背の高い黒髪の人。  瞳は青と紫の混じった不思議な色で、目を合わせ唇を重ねた一瞬だけでステンドグラスのように色が移り変わるのが美しかった。逞しい、雄々しい、瞳の力の強い男性だった。  触れる唇は羽根で撫でるようだった。指輪を交わしたごつごつとした手は、鍛えられて皮が固くなった、分厚い手をしていた。彼の手に包まれた私の手は、まるで綿のように頼りなかった。  彼は、私に手紙の一つもよこさなかった。 「花嫁に対して、なんて冷たい人なのでしょう」  他国の王妃として私に会いに来てくれた姉たちは、口々に唇を尖らせた。 「大切な妹を譲ってやったのに、子どもすら作らないなんて」 「花嫁にとって大切な初夜を無視した上に、こんな酷い環境に置いているなんて」  私は曖昧に笑った。そして「それが私の役目ですから」と姉たちを国に返した。  そう、私は存在するのが役目。彼は国を愛するのが役目。  私は敗戦したこの国に贈られた妃。  前国王陛下は処刑され、新国王として陛下が即した後に、私は彼と結婚した。
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