15人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
父は一瞬だけ、瞳に愛娘である私を過酷な国に嫁がせるためらいをみせた。
しかし父は皇帝だ。すぐに私が、彼に嫁ぐ事の利を見いだした。
父は彼に命じた。私を妻として娶るように、と。
そして陛下は私を溺愛しなかった。
個としてではなく、陛下は国民への愛を優先した。それが私は嬉しかった。
だってようやく、私は高貴な血に生まれた役目を果たせるのだから。
ただの溺愛なんて、要らなかった。
◇◇◇
思い出に浸っていると、陛下は私の手に触れてつぶやいた。
「……会いたかった」
陛下は微笑んだ。少し困ったような、愛おしむような笑みだった。
「離縁はしないでいてくれるかい?」
「陛下のお望みのままに、でございます」
「ありがとう」
「他にお望みはありますか?」
「そうだな……留守にしていた間の話を、少し聞いてくれるかな」
「承知いたしました」
私をベッドに座らせ、隣に座った陛下は訥々と語った。この三年間の顛末を。
敗戦国となった国中ではあちこちで、メルガ帝国への不満が噴き出していた。
最初のコメントを投稿しよう!