汎愛殿下が私を溺愛するまでの三日間

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「恨まれ、ガス抜き役になり、役目を果たせることは、私の喜びです。それにいじめられたのも短い間の話です」  そう。もうすっかり、いじめられていた過去は忘れていた。 「今では大切に扱っていただいて、毎日身に余るほどの交友の機会をいただいております」 「ああ。城に帰って驚いたが、今は皆が君を溺愛しているようだな」 「私の力ではありません。それは陛下の国民皆さんに対する汎愛が伝わったからです。だから、陛下の妻である私にもいじわるができなくなったのです」 「いいや手々君の真意に、我が国民も気づいたのだと思うよ」  彼は慈しむように私の手を取り頬を寄せた。  指は数年前と変わらず節張って長い。手のひらも分厚くて固かった。騎乗を続け、剣を振るい続けてきた人の手だった。  彼は初めて、私を見て柔らかく微笑んだ。 「君は強いな」 「あなた様の妻ですので」  私は陛下の青紫の瞳を見つめ、微笑んだ。  ――ああ、あの頃から、この人の瞳は何も変わらない。 ◇◇◇  ――かつて。私は、溺愛されるばかりの帝国の末娘だった。  帝国の末娘。
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