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それは本来帝国の姫として、民のため国家の為、人生を殉じるのが役目だった。
けれど私には生まれた時には既に、役目などというものはなかった。
政略結婚は既に姉たちが済ませ、帝国は父のもと安定していた。
姫の役目は政略結婚と教えられながらも、私は政略結婚のせの字もなく、ただただひたすらに国民から、父から愛されるだけの姫だった。
愛は嬉しかった。けれど、役に立てない、ただ溺愛されるだけの存在は辛かった。
そんなとき。
終戦前、メルガ帝国の謁見の間において、私は陛下と出会ったのだ。
まだ陛下が王位継承権を簒奪されたままの、一介の騎士だった時代だ。
陛下は私の父の前に頭を垂れ、宣言した。
己が腐敗したゼーディス王国を改革するということを。
国民を守るために己が新国王となり、帝国に恭順することを。
三年で国中の意見をとりまとめると。
顔を上げた陛下の青紫の瞳は美しかった。
私は一目で恋に落ちた。理想の人だと思ったのだ。
私は自然と父を見た。
視線で、私は父に訴えた。どうか私をこの人の妻にしてください――と。
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