第一章 雪降らずして銀に染まらず、朱に染まる

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 そして冬。新年を迎えた。いつも飲みに行く同級生からは最近連絡が少なくなって物足りなさを感じている。正直寂しい。気の知れた奴らと飲みたいのは薄々感じていた。補う訳ではないが、地元の行きつけで飲んでいた。まぁ、それはいつものことなのだが。  こんな年でもいいじゃないか。平和でいいじゃないか。本当にそう思う。雪も少なく移動には良い年だ。狩猟と猟銃免許も趣味の範囲内で取りたいと思っている。余計なことまで考えているのは世界が平和な証拠だ。田舎だから、ではない。日常が平和だからだ。  このままでいい。平和が一番だ。トラブルなんてなにもない方がいい。  それなのに、心にぽっかりと穴が空いたような空虚感を抱くことがあるのは何故だろう。  腕時計で時間を確認する。まずい。いつもの店に行かなくては。マスターに頼んでいた本場顔負けの麻婆豆腐を食べに行かなくてはならない。痺れる辛味の中にある旨味が素晴らしい。一種の中毒性を持つほどに病みつきになる。次の日も食べたくなる衝動に駆られるほどだ。  繁華街を歩いていると冬風が吹く。酒で火照った体を覚ますには丁度良かった。  冬風に吹かれていると、ふとあの時を思い出す。去年の年の暮れ、東京で出会った少女のことを。  殺し屋と名乗った少女のことを。
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