病状説明では

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病状説明では

 「それでは、オクウエさんの病状の 説明を行います」  病室で目覚めた数日後、僕は病状説明のために 主治医の先生が待つ四畳半くらいの部屋に 車椅子で連れて行かれた。  僕の前に座った先生が、僕の後方を見ながら 口を開いた。  「えっと……そのオクウエさんはご家族 多いんですね」  「え?」  僕が後ろを振り返ると、僕の背後には、 自称父さん、母さん、姉ちゃん、爺ちゃん、 婆ちゃん、そして、タケシとモトオ、 そして……花ちゃんという女の子まで。  僕の背後から 食い入るように先生を 見つめていた。  狭い部屋の中は満員御礼状態。  「すみません……」  記憶喪失の僕は、誰が誰だかわからない 人達のために先生に頭を下げた。  「コホン……では、これからあなたの病状に ついてご説明します」  先生は、レントゲンやCT、MRIの画像を見ながら 淡々と説明を始めた。  「あなたは、事故の影響で一時的? に記憶が 欠落しています」  「一時的? 記憶が欠落?」  「はい、いわゆる記憶喪失というものです」  「記憶……喪失」  息を飲んだ僕は先生に質問をした。  「先生、それは治るものですか?  それとも一生……このまま……とか」  「個人差がありますからね。こればかりは。  数日で記憶が戻る方もいれば…… 突然記憶が戻る方もいます。  ふとしたきっかけで思い出す方も 多いようですよ」  「そう……ですか」  「はい……ですから焦らずに  気長にいきましょう。 生活は普通に送ってかまいません。  ただ、周囲の方々にはあなたの状態を知って いただく必要がありますね。  ちなみに今、あなたの後ろにいらっしゃる 背後霊のような方々に理解していただくことから はじめましょう」  顔をひきつらせた先生が呟いた。  「はぁ……わかりました」  僕は小声で呟いた。  「マモルが記憶喪失……」  口々に呟く家族一同そして、友人たち……。  室内がザワザワとどよめく。  いつ戻るわからない『僕の記憶』。  戻らない記憶とは裏腹に僕の身体は順調に 回復し、退院の日を迎えた。
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