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「マモル~、ご飯よ~」
階段下から僕を呼ぶ声がした。
階段を下りていくと、茶の間の
テーブルに沢山の御馳走が並んでいた。
テーブルを囲むように僕の家族が僕を
見つめている。
僕は、少し遠慮気味に僕の席に座った。
自称父親が、グラスを持つと、
「え~っと、僭越ながら今日は、
長男、マモルが交通事故から奇跡の生還を
果たし、無事に退院する運びとなりました。
つきましては……」
おい、おい、おい、宴会の挨拶じゃないかよ。
僕の父親って面倒くさい人だったのか?
母さんは、なんとなく天然さく裂系と
いうのはわかったけど……。
そんなことを考えているうちに自称姉ちゃんから
止められた自称父親が、高々にグラスを掲げた。
「乾~杯」
家族が楽しそうに食事を始めた。
聞くところによると、今日のメニューは
僕の大好物ばかりらしい……。
「マモル……記憶がなくても大丈夫じゃよ
わしなんか、すぐに何でも忘れてしまうんじゃ」
自称爺ちゃんが僕に言った。
「お爺ちゃんのは、加齢に伴う物忘れでしょ?」
自称婆ちゃんが言った。
「焦らなくていいからさ、ボチボチで。
それより、自宅に戻ってなんか
思い出した?」
口が悪い自称姉ちゃんが僕に尋ねた。
「あ、うん。少しは……思い出した」
静まりかえる面々。
「何を思い出したのよ?」
言えるか……
エロ本のことだけを思い出したなんて。
「まぁ、少しづつだけどね。焦らずに
いくよ……」
「でも、退院して翌日に学校大丈夫?」
「うん、友達が迎えに来てくれるから」
「タケシ君とモトオ君?」
「う、うん。彼等には……その色々と
お世話になってたらしいから」
「ふ~ん。あの秀才君と優男君のことか。
確かにあんたいつもお世話になってた
みたいだもんね。宿題とか課題とか……」
「そうなんだよ。課題の締め切りが明日まで
だからさ、助けてもらう約……束を……
え? 事故からどのくらいの日数が
経過してる?」
「丁度、三週間程かな?」
自称姉の言葉を聞いた僕は青ざめた。
「ヤバい、課題の締め切り、とうに過ぎてる。
赤点確定だ……」
焦り顔の僕に、周りの家族は嬉しそうな顔をして
僕を見つめる。
「マモル、あんた思い出したの?」
自称姉ちゃんが呟いた。
「やべ~、俺、ちょっと確認するから御馳走様」
僕は慌てて二階に上がって行き、机の上に置いて
いたスマホを手にとると、タケシとモトオに
ラインを送った。
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