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この日の労働時間も長かった。とはいえ、午前様にはならずに済んだので、いつもよりは短かったんだろう。
終電間際の電車で帰宅すると、リョウがキッチンからいい香りを立てながら笑顔で「お帰り、花奏。」と迎えてくれた。
「は!? あれ?リョウくん? 昨日のは夢じゃなかったの?」
何がどうなってるの?今朝、会社へ行く時は固くて冷たい亡骸だったはず……
「俺、日が暮れると目が覚めるみたいだ。」
何それ? どゆこと?
私が玄関から動かずにポカンと立ちつくしていると、
「花奏は俺と一緒にいるの嫌?」
美しく整った顔が、人懐っこい顔で拗ねるように言った。
「そんな訳ないじゃないですか。でも、私なんかとリョウくんじゃ……」
「“なんか”とか言わないの。俺が好きでここにいるんだから。俺のこと否定するの?」
「ち……違うの。私、自分に自信がなくて…それに男性が苦手だから……」
「俺も男だけど…苦手?」
私は勢いよく首を横に振った。
「じゃあさ、もう二度と“私なんか”って言わないで、俺のために。
さ、ご飯食べよ。上手く出来たか分からないけど。」
リョウは頑張って作ってくれた二人分のハンバーグを皿に盛り付け、テーブルの上に並べた。
「花奏、こっちへおいで。」
リョウは、自分の膝を両掌で軽くポンポンと叩き、手招きして私を呼んだ。
「え?お膝に乗るの?」
「そうだよ。これから毎日、こうして食事しなきゃダメ!」
毅然とした態度でそう言う彼の膝におそるおそる座る。
「そう。花奏の席はいつもここだよ。もっとリラックスして。体を俺に預けて。」
そうは言われましても…私、子供じゃないし…立派に女性一人分の体重ありますし…
それに、リョウくん実は死体じゃないですかー。折れちゃったらどうするんですかー?
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