教えてくれる？

「じゃあ、この人はマザコンなの？」

──こいつが！？──

「まさか、まさか、まさか！　超がつくくらい鈍感で母親思いのかけらもありません！！」

「そうなんだ……」
　いきなり女は穏やかな顔になった。そして……両手をめいいっぱい突き上げ、喜びを爆発させる。

「やったぁ！　最高！！！　清々しい気分よっ！！　だってこの人、中途半端にいろいろ私に見せつけて引っ越しするんだもん！！」

「へっ？？」
　私は腰砕けに座りこんだ。
「大丈夫か？」
　気の抜けた私に彼が心配して駆けつけてきた。

「ありがとうね！　私は地縛霊。だけどなんかすっきりしたわよ！　昔ねここでなんかあったみたいなんだけど忘れちゃったのよね。忘れるくらいにこの人からいろんなもの見せてもらったけど中途半端に残して引っ越しちゃうから未練たっぷりだったのよ。この人の前も、いろんな人から中途半端に見せられてなんかあったんだけど、それは忘れちゃった。私、忘れぽいのかな。でも、もうなんかすっきりしたし、なんか未練なくなっちゃったわ。これ、もしかしたら成仏できそうかも……いろいろ教えてくれて、ありがとね……敏感な彼女さん……」

　そう言い残すと女はすっと消えていった。
「どうしたんだよ？　急にわめき出してさぁ……」
　汗まみれの気の抜けた顔で彼氏を睨みつけながら私は言った。

「あんた今度、引っ越す時はなんでもかんでも物事終わらせて引っ越すのよ！　分かったぁ？　この鈍感！！！」

〈了〉