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「わぁ、西村さんこんばんは」
少し大袈裟に喜怒哀楽を表すくらいが、ちょうどいい。何故なら、相手が幾分かバカに見えて、自分の方が相手よりも、圧倒的に優れているという雰囲気が勝手に出るからだ。
「最近来てくれなかったから、他にどこかいい人が見つかっちゃったのかと思いました」
そう言いながら満員の通勤電車に揉まれただろう、汗臭いワイシャツの腕に抱き着く。その時に敏感な鼻がひくりと動いてしまうのを感じるたび、自分もまだまだだな、と思う。
「そんな事ないよ、ちょっと忙しかっただけ。仕事、俺がいないと回らないからさア」
――分かる分かる、忙しくない奴に限って忙しいって言うよね。それだよね。アンタ仕事任されてなさそうだもん。金がなかっただけだよね? 俺は安くないしね。
相手に調子を合わせながら、口が裂けても言えない毒を頭の中で撒き散らす。けれど相手は機嫌よく目尻を下げながら、自分がいかに社会に貢献しているかを語り始めるから面白い。俺にそんな自慢話したところで、自己顕示欲は満たされるかもしれないけれど、性欲は一ミリだって満たされないのに。
ここは性欲を満たす場で、自慢話をするところではない。限られた時間の中で、いかに性欲を発散するかが問題なのに、こうやって時間を無駄遣いして、最後には「時間短過ぎる」と文句を言う。
「西村さん、時間なくなっちゃうよ」
うんざりした気持ちを笑顔で覆い隠して、そう促すと、
「そんなに俺としたいの?」
と、的はずれもいいとこな挑発が飛んできて、思わず目尻がひくりと動いてしまう。
「西村さん、ほんとすけべだなー」
俺は大げさくらいに声を上げて、彼の背中を少しだけ乱暴にバスルームへと押し込んだ。
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