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「こうなると、表彰も延期かもな」 「表彰?」 「何だ、知らないのか?」  円山はそう言って、少し大げさに身体を引いた。 「今回、うちが作ったあの歯車な、海外の宇宙開発企業にも卸されるっていうんで、社長が喜んでさ。定年になる前に、佐藤さんに特別功労賞を出そうっていう話が出てるらしいんだ」 「なるほど」 「あの人は高校卒業後、ずっとこの会社でやってきたからな。きっと喜ぶと思うぞ」  円山は自分のことのように、嬉しそうな顔をした。円山が佐藤と同じ高卒で入っているからかもしれないが、それ以上に佐藤の培ってきた人間性によるものではないかと和也は思った。もっとも主任補佐で有名大学を出ている村上などは、平気でやっかみそうでもあるとも、和也は思い直した。   「ま、それも無事に代金が支払われてからの話だけどな」  自分でそう言い、円山は肩をすくめた。 「支払いが延期されている理由は聞いたんですか?」 「ああ、社長直々にな。向こうの責任者がでたんだが、のらりくらりとかわされたらしい」  社長が直々に聞いても、答えてくれないというのはどう考えてもおかしい。  もしこんな時、佐藤がいたらどうしていただろう?  佐藤は技術職だったが、数字に強く、人の心の機微を理解するのにも長けていた。  和也は入社以来ずっと、佐藤に見守られてきたのを感じていた。それは決してプレッシャーを感じさせる視点ではなく、むしろ安心できるものだった。そして肝心なところで一言アドバイスをしたり、あるいは誰も評価していないと思っていたようなところで褒めたりするのが、佐藤だった。 「佐藤主任に聞いてみるのは?」  円山も同じことを考えたらしい。少し黙ったあとで首を振った。 「だめだ。奥さんにこの間聞いたんだが、結構体調悪いみたいだ。相当無理してきたんだろうな」
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