37.情交※

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37.情交※

 蜜色に灯された寝台で、濡れた音が響く。ケイはヴォルクの首に手を回し、一心にその唇を堪能していた。 「ん……。……っふ、……は…ぁ……」  ヴォルクの動きは、予想に反してゆっくりだった。時間をかけてケイの唇を優しくついばんだかと思うと、ようやくケイの口内へと侵入してくる。  歯列をくすぐり、先ほどは驚きで縮こまっていたケイの舌に触れると誘うようにつつかれる。ケイが舌を伸ばすと、それを絡め取られ口付けはより深くなった。  蜂蜜の味は、いつの間にかしなくなっていた。 (キス、上手いな……。てかキスってこれでいいんだっけ……? 息が――。やば、そろそろ苦し――) 「……はぁっ……」 「……どうした?」 「すみません。ご無沙汰すぎて、忘れてて……っ。あの、重ねてお願いが――。ゆっくり、お願いします……」  口付けから逃れるように息継ぎをすると、ヴォルクが至近距離から覗き込んできた。息を弾ませるケイに、小さく吐息だけで笑う。 「安心しろ。そなたより私の方が確実にご無沙汰だ。……そなたを痛めつけるようなことは絶対にしないが、もし痛かったら言ってくれ。嫌なことも」 「は、はい。……ん、……う……」  頬に口付けられ、ケイはびくっと小さく震えた。ヴォルクはまだケイを見ている。その視線にそわそわして、ケイの肩が固く強張った。 (……まずい。緊張がぶり返してきた……。私どんな顔してる? どんな顔したらいい……?)  初めて肌を重ねる相手に、どんな表情なら晒していいか分からない。  困惑の表情で固まったケイに、ヴォルクが小さくため息をついた。ケイの背後に回り込むと、その首筋をきゅっと掴む。 「ひゃっ…!?」 「……っ?」  急にぞわっと寒気が走り、ケイは高い悲鳴を上げた。ヴォルクがもう一度うなじを指で押すと、たまらず身をよじる。 「やっ…! ……や、やめてください。首は、ちょっと――」 「そなた――」  ヴォルクが茫然とケイを見下ろす。続いてツ…と首筋を撫でられ、ケイは大仰に身を引いた。 「そなたまさか、首が弱いのか? 私の首はあれだけ触っておいて――」 「だ、だって、あれはやましい気持ちとかなかったですよ!? ただ楽にしてあげたくて」 「私だって今のはない。緊張しているようだから少しほぐそうかと――」  ヴォルクはいつかケイが首筋をマッサージした時のことを言っているようだった。ケイが弁明すると、ヴォルクもまた慌てたように告げる。  しばし見つめ合うと、今度はそっと襟足に触れられた。触れるか触れないかの距離で首筋を伝う指に、ケイはぴくりと身じろぐ。 「んっ、ふっ……」 「これは……そういう気持ちが、ある」 「あっ……!」  首筋に濡れた感触が落ち、遠慮なく舐め上げられた。悲鳴を上げたケイの背中をヴォルクがガウン越しに撫でる。  目元から唇、唇から首へとキスを降らせながら、ヴォルクの手がケイの体をたどっていく。腰を回って、布越しにそっと胸の上に手を置かれるとそこを柔らかく揉みしだいた。 「ん……」 「……見たい。良いか?」  少し息を弾ませた濡れた声で請われ、ケイは赤い顔でうなずいた。ヴォルクがガウンの帯を解いて襟を寛げると、白くたわわな膨らみがこぼれた。 「……っ」  ヴォルクが小さく息を飲むのが伝わり、ケイは羞恥にうつむいた。すくい上げるように触れられると、ヴォルクは感嘆したように息を吐く。 「……大きいな」 「……はい……。顔に似合わず無駄に……」 「無駄ということはないだろう。こんなに美しいのに」  それはどうだろう。昔に比べれば形も崩れてきただろうし、出産で先の色も濃くなってしまった。困った顔をするケイにヴォルクはふっと微笑む。  ヴォルクが手を離し、自らのシャツのボタンを外していく。それを目で追いながら、ケイは小さく問いかけた。 「ヴォルクさんも、大きい方が好きですか?」 「…………。あまり考えたこともなかったが……今、初めて良いものだなと思った。……陛下の気持ちがやっと分かった」 「……ふ」  手を止めたヴォルクが恥ずかしそうに小さく答えた。その耳が赤く染まったのを見て取り、ケイは思わず笑ってしまった。 (王様、巨乳好きか……。なんか、らしいな)  ヴォルクがシャツを脱ぎ落とし、上半身裸になる。あらわになったたくましい肉体にケイは心の中で悲鳴を上げた。 (う、わ、わあ……! えっ、すご――。いい筋肉…!)  服を着ていてもたくましいのは分かっていたが、実際に見ると想像以上だった。  大胸筋がくっきりと盛り上がり、その下の腹筋はバキバキに割れている。厚みのある肩から太い二の腕へと芸術的なラインが続き、ケイがひそかに推していた体操のお兄さんに負けず劣らずの太さだ。  細身だった元夫とは何もかも違う。鍛え上げられた鋼の肉体を前にしてケイが思わず口元を覆うと、ヴォルクは不思議そうにケイを見る。 「どうした」 「いえ……。お綺麗です……」 「なんだそれは。そなたの方が綺麗だろう」 「あのっ、じゃあ……たくましくて素敵です……」 「……そなたの好みに合ったようなら良かった」  恥ずかしさをこらえて素直に賞賛すると、ヴォルクはおもはゆそうに苦笑した。  互いに素肌になり、再び抱き合う。少し高めのヴォルクの体温に包まれ、ケイはほう…と息を吐き出した。 (……気持ちいい。……安心する)  手を滑らせると、少し勇気を出して厚い胸板に触れる。  見た目は鋼のようだった胸筋は、平時は意外に柔らかいことを初めて知った。その下の心臓がドクドクと脈打っているのが伝わりケイは顔を上げる。 「……早いだろう?」 「はい……。んっ……」  肩口に口付けられ、吐息を漏らす。ヴォルクの濡れた唇は鎖骨をたどり、ゆっくりと乳房へ落ちてくる。手で触れながらついばまれ、やがてそれが先端を口に含んだとき、ケイは思わず顔を逸らしてしまった。  舌で転がされ、吸いつかれる。それは久しぶり――というか、もはや授乳以来の感覚で、胸元に収まっていたココの吸い方と今のヴォルクの愛撫の違いに頭が混乱する。  この場でココの顔を思い出してしまい、ケイは背徳感におののいた。 「あの…っ、胸……。……は、恥ずかしいです……」 「……そうか」  制止の意味を込めて告げると、ヴォルクは逆にケイの背を反らせた。胸を突き出すような体勢にさせられ、ケイに見せつけるように乳首を舌先で転がす。  幼子とはまったく違う、明確な欲望を示す動きにケイは唇を震わせた。 「やっ……! ちがう……!」 「そうだな」  ケイの背中を抱き、どさりと背後に押し倒された。ベッドに乗り上げたヴォルクがケイの上で四つ這いになる。  大きな体に組み伏せられ、ケイの喉がひゅっと鳴った。……完全に獣に食われる寸前だ。  ヴォルクは息を荒げると、遠慮がなくなったようにケイに食らいついた。 「ヴォルクさんっ…! ゆっくりって言った……!」 「これでもゆっくりしている。そなたを、大事にしたい。……だが男の欲も少し察してくれ」 「ん……っ。ひゃっ……」  ガブガブと甘噛みされながら、手のひらが脚を伝う。時折顔を上げてはケイに口付け、ヴォルクは湿った声で漏らした。 「そなたの肌は、気持ちいいな。柔らかくて……ずっと触れていたくなる」 「あっ……。ん、いや……っ」 「嫌か……? 本当に嫌なら、やめるが」  二の腕に吸い付いていたのを急に静止され、至近距離からじっと見つめられる。ケイは困り顔で口をつぐむと、小さく首を振った。 「い、いや…じゃ……ないです……」 「それは良かった。そういうときは、いいと言ってくれると嬉しい。……不思議な形の下履きだな」 「あっ……!」  とうとうヴォルクの手がショーツにかかった。  外から臀部と亀裂の上をなぞると、ためらいなく上から指を差し込む。亀裂を探り当てると指先が押し当てられ、ケイは強く首を反らした。 「ん……!」  少しは濡れている――が、まだまだだ。ヴォルクの指が動くと摩擦でそこが引きつれ、痛みまではいかないが不快感にケイは眉をひそめた。 (なんで――。やっぱり駄目なの!?)  間違いなく感じているのに、興奮しているのに、なぜこの体は思うようにならないのか。  唇を噛みしめると、ヴォルクが手を引き抜く。続いた言葉にケイは耳を疑った。 「なるほど……。これはたしかに、攻略のしがいがある」 「!?」  ぼそりと低く、しかしうっすら獰猛に笑ったヴォルクがショーツを引きずり下ろす。生まれたままの姿にされたケイは脚を開かれてぎくっと身を強張らせた。  ……まだ、挿れられるには早い。だがヴォルクは背中をかがめるとケイの内腿に舌を滑らせる。 「えっ。……待っ――。んっ、いやぁ……!」  脚を押し開き、茂みをかき分けるとヴォルクが亀裂を舐め上げた。ケイが身を竦ませるとそこを開き、一番前で震える肉の芽に舌を這わせる。 「ヴォルクさんっ!? やだ、やめて下さい…! そこまでしなくていい……!」 「そこまで(・・)、とは……? 私にとっては、これから、だ」 「……! ひっ……。ン、あ……!」  唾液をたっぷりと含ませた舌先で芽を転がされ、ケイは身をよじった。  今日初めての高い嬌声を上げたケイにヴォルクは口の端で笑う。薄い皮を剥いた芽を唇で包み込まれ、ケイはたまらず悶えた。 「あ、あ……! や、やだ…! ヴォルクさ――、ん、や、あ……ッ!」 「……いいと言ってほしいのに。ようやく、そなたのその声が聞けたな」 「あっ、アッ! ――んんっ! あ……っ!」  敏感な芽を吸い、舐めまわされ、ケイもさすがに耐えられなかった。何より、そんな場所を舐められたのはこれまでの少ない経験の中でも生まれて初めてだった。  粘膜と粘膜が触れ合う、気色悪くて最高に気持ちいい独特の感覚。上がる水音に首を振って悶えていると、その下でうごめく指の動きにケイはびくりと震えた。  格段に増えたぬめりをまとって、指が――中に入ってくる。 「あ……。ん、あ……っ」  ズ…と慎重に埋め込まれた中指が、いったん奥まで行って引き抜かれると今度は2本になって戻ってきた。なめらかに進んだそれは、ケイのそこを慣らすようにクチクチと水音を立てて深く浅く抜き差しされる。 「……熱いな」 「あ、あ、ん……ッ! あっそれ、やだ、一緒にしないで……!」 「こんなに良さそうなのにか…? ……っ。絡みついてくる……」 「やだぁ……!」  舌で芽をなぶられながら、後ろで指を抜き差しされる。その同時攻撃にケイはなすすべもなく喘いだ。もう恥ずかしいとか隠そうと思う余裕もなかった。  激しさはなく、あくまでも単調に動く指に息がせり上がる。そのうち腰が揺れ出し、ヴォルクの指と舌をもっと、もっととねだるように前後に動いた。とうに枯れたと思っていた女の本能が急速に呼び覚まされる。 「は、あ……ッ! だめっ、……っあ、ああッ……んッ!」  目を閉じ、与えられる快楽を追うように胸が激しく上下する。シーツを掴んでひっきりなしに嬌声を上げると、つられて粘着質な水音がケイの耳を犯した。 「あ……、いいっ……。アアッ、んっ、ヴォルクさ――。あっ、ああっ、ふっ、……ア……!!」 「っ……」  やがて快感が膨れ上がり、とうとう高みへと昇りつめた。高い声を上げて果てたケイは内腿でヴォルクの頭をきつく締め付けた。  強張りは長く続き、大きく息を乱してようやく弛緩するとやっと指が引き抜かれる。しばらく目を閉じて余韻に浸り、ぼんやりと潤む目を開けるとこちらを見下ろすヴォルクと目が合った。 「……乱れるそなたも、良いな」 「……っ!」  口の端を濡らしてそんなことを言われては、返す言葉もない。  体の上から身を引こうとしたヴォルクの肩をケイは引き留めた。そしてその膨らんだ足の間に手を伸ばす。 「……ッ」 「……ほしい……」 「え――」 「欲しい……! 挿れて、ほしい……」  ケイの懇願にヴォルクは眉をひそめた。ケイは達したままの乱れた顔で彼の瞳を見つめる。  挿入できなくても良いと言ってもらえたのは、素直に嬉しかった。二人がそれぞれの秘密をさらけ出したからこそ、ケイも安心して身を委ねられた。  ヴォルクのそこがそう(・・)なっているのは、はじめからなんとなく気付いていた。それでも、彼が自信がないのなら最後までしなくても良いと思っていた。  しかし今、自分だけ達して、ヴォルクもちゃんと興奮していることを見て取り――欲が出た。  できるのであれば、してほしい。彼を全身で、体の奥で感じたい。途中で失敗してもいいから――そんな願いを込めて、ケイはヴォルクのベルトに手を掛ける。 「ケイ……」 「私だけ気持ちよくなっても、駄目です。ヴォルクさんにも感じてほしい……! もう早くても、中で折れちゃってもいいから……! してほしい……」 「……っ」  我ながらすごいことを言っている。ケイの顔も真っ赤だがヴォルクの頬もうっすら赤くなっていた。  指が震えてうまくベルトを外せないケイの手が押し止められ、ケイは悲しく顔を上げた。ヴォルクはこらえるような顔で首を振ると、自らベルトを緩める。 「私も……そなたが欲しい。……抱きたい、すべてを」  下衣をくつろげ、ヴォルクが残った衣服をすべて脱ぎ捨てる。あらわになった、そそり立つ彼の熱にケイは息を呑んだ。 (でっ――! えっ!? え……!? えっこれ、この世界の標準!? 知らないけど……!)  無言で目が釘付けになっているケイに気付き、ヴォルクが苦しげに笑う。なだめるように己を撫でた彼は少し意地悪く唇を吊り上げた。 「なんだ……? 見慣れているのではなかったか?」 「みっ……! 見慣れてますけど、全然違いますよ! シワシワだし、第一こんなに大きくない――。……あの、大きい…ですよね……?」 「いや、普通だ」 (マジで!? 欧米人こっわ……! け、経産婦で良かったー!! ……入る……はず! あのサイズが出せたんだから、いける! ……たぶん)  一瞬恐怖に傾きかけた心を、よく分からない理屈で無理やり引き戻した。心を決めたケイは、しかし一つの疑問がよぎりヴォルクを見上げる。 「あの……避妊、とかは……」  デキ婚経験者としては、中途半端な状態でのリスク行為はできれば避けたい。ヴォルクは目を小さく見開くと得心したように「ああ」と応える。 「そこは心配ない。……これだ」 「……?」  ヴォルクがサイドテーブルに置かれた小さな瓶を手に取った。先ほど酒と一緒に持ってきたものだ。  ケイが首を傾げると、ヴォルクは苦笑して瓶の蓋を開ける。 「そなたの世界には、ないものか……。これは子種を殺す作用のある薬草だ。普段は乾燥しているがこうして水にふやかすと柔らかくなって、入れやすくなる」 「入れる……? どこに?」 「そなたの中に、だ。あらかじめ仕込んでおいて、事に及ぶ。もちろん女人の体に害はない。事後は体温で溶けて排出される」 「へ、へ〜……。便利ですね……。私、お酒のおつまみかと思ってました……」 「くっ……。食べるなよ。害はなくとも腹は下す」  世界が変われば、異なる技術が発達するものだ。ケイはしげしげと水に揺れるタピオカ改め、避妊草を眺める。 「あの…これはどこで……? お家から持ってきたんですか……?」 「いや……これも厨房でもらった。城では、ままあることだからな。今の我々のように。……いや、私は初めてだが!」 「疑ってませんて」  登城前から計画していたのかと思ったが、それは否定された。どころかケイが疑ってすらいなかった身の潔白を主張され、ケイは思わず苦笑してしまった。  バツの悪い顔をしたヴォルクが瓶の中の薬草を指ですくう。 「ひゃ……」 「一応、この水にも潤滑液の用途があるが……そなたには不要だったな。まだ、こんなに……あふれてる」 「あっ……。駄目……」  薬草をゆっくりと体内に押し込まれ、その過程でぬめりをまとった指が濡れたそぼった芽に触れた。快楽の名残を色濃く残したそこは少しの刺激にも敏感に反応し、亀裂が今か今かと雄を待ち望んでうごめく。  ヴォルクは荒く息を吐くと今度こそケイの膝を開いた。亀裂に頭をなすりつけ、先端をめり込ませる。 「……挿れるぞ。痛かったら言ってくれ」 「はい……。んっ……く」  ぐっと、しっかりと硬さを保った熱がケイの粘膜を押し開く。すぐに抵抗を感じたが、意識して脱力するとず…と圧倒的な質量が中に入ってきた。  自分の中を貫かれる、もう忘れていた感覚にケイが眉をひそめるとヴォルクが静止する。息を吐き、知らず震えていたケイの頬を手で撫でた。 「……つらくないか?」 「はい……。大丈夫……」  ――良かった、入った。彼を受け入れられた喜びと安堵にケイはほっと体の力を緩めた。  いっぱいに開かれた脚を少し動かし、楽な位置に戻す。……しかし。 「そうか。……ならば、最後まで挿れるぞ」 「へ? ――ッ!?」  ――体感、5センチ。終点だと思っていたところから、さらに熱を押し込まれた。  実際はそんなにないのだろうが、ケイには果てしなく長く感じられた。臀部にヴォルクの腰がぴったりと触れ、ようやく根元まで埋め込まれたのだと悟る。 「あ……」  深い。ケイ自身はもちろん、元夫も誰も知らない奥深くでヴォルクの脈動を感じる。圧迫感がすごい。  それでも息を吐いて体の力を緩めると、ケイはヴォルクの頭を抱え込んだ。 「……ケイ」 「良かったですね……。できましたね」  嬉しくて、ヴォルクの頭をよしよしと撫でてしまった。ケイのされるがままになり前髪が下りたヴォルクが微妙な顔を浮かべる。 「……私はココではないぞ」 「あ。……すみません、つい」 「いや。……なかなか悪くない」  ヴォルクがくすぐったそうに笑う。その襟首に手を伸ばすとケイは自分から口付けた。  もう、触れることにためらいはなかった。キスはすぐに深くなり、ケイはのしかかるヴォルクの背に手を添わせる。 「良いものだな……。受け入れられているということは」  愛おしさを滲ませてヴォルクに見つめられ、ケイは胸が熱くなった。それはたぶん、身体的な意味だけではない気がした。  見つめ返し、ヴォルクの唇に、目の下の傷に、秀でた額に口付ける。好きだと、愛おしいと伝えたくて全身で彼を包み込んだ。 「動いていいか」 「はい。……あ、ゆっくりで……」 「分かっている」  やがて互いの熱が馴染むと、ヴォルクに抱き込まれ、ぴたりと重なったままはじめは小さく揺すぶられる。  狭い最奥を慣らすように広げられ、脚の付け根が苦しくてケイはヴォルクの腰へとそれを絡ませた。それが合図のように、ヴォルクが少し身を引く。 「う……っ、……く……」  初めてヴォルクが濡れた吐息をこぼした。彼は震える息を吐き出すとゆっくりとケイを穿ちはじめる。抜き差しされながら、ケイは薄目でヴォルクの顔を眺めていた。 「ん……っ、……は……っ、……」 (……すごい。ヴォルクさん……気持ちよさそう。こんな顔するんだ)  目を閉じて、眉をひそめて。ゆっくりと腰を振るヴォルクは今までに見たことのない顔をしていた。  快楽に浸る彼は無防備で、押し殺した低い吐息がひどく悩ましかった。……今、自分だけが見ている。彼の、こんな乱れた顔を。  揺さぶられて吐息を漏らしながら見つめるケイに気付いたように、ヴォルクが動きを止める。 「……痛いか? すまない、没頭してた。あまりに……そなたの中が良くて」 「大丈夫ですよ」  もとより中では感じられない性質(たち)だ。痛くないならそれで十分だ。  ヴォルクは少し考え込むと、身を起こしてケイを眼下に収めた。おもむろに、結合したその上で震えるケイの芽に手を伸ばす。 「あっ…!? ……ま、待って。そこ触られると……っ」 「私だけ気持ちよくなっても駄目……だろう? そなたの感じるところを探させてもらう」 「えっ。……んっ、くぅ……ッ」  先ほど自分が言った言葉をそのまま返され、濡れそぼった芽をなぶられながら抽挿が再開された。ヴォルクの視線にさらされながら、ケイは再び引きずり出された快楽に顔を歪める。 「んあ……っ。あっ、あっ……。や、やだぁ……」 「……少なくとも、前は好きだな。こんなに膨れて……可愛いな」 「やめて……っ! い、言わないで……」  ヴォルクの声色にはケイをなぶるような色はなく、独り言のような響きだったがケイには十分恥ずかしかった。顔を見られるのに耐えられず肘で隠すと、そのまま手首を掴まれてぐいと頭上に押しやられる。 「隠すな。もっと見せてくれ」 「あ……! や、やだ……! 深い…ッ」  体勢がわずかに変わり、再度ヴォルクを奥深くまで咥え込むような形になった。中で硬いところが当たる角度も変わり、今まで知らなかった場所がズリ…とえぐられる。 「……っ! う……、んっ…!? あっ、えっ、あ……ッ!?」  反応の変わったケイにヴォルクが目を見開く。そこを重点的に突かれると、芽を攻められるのとはまた違う深くて重い疼きが湧いてくる。腹の底が熱くなるような―― 「ああっ! なに、これ……っ! あ、こんな奥、に……! あ、奥、……あっ、ダメ……!」 「……っ、ケイ……ッ!」  手を重ね、ケイを囲い込んだヴォルクが大きく腰を動かす。豊かな乳房が上下に揺れ、唸るように息を吐き出したヴォルクがそこを鷲掴みにした。走った痛みすら快楽を加速させる刺激に変わる。 「不感症などと……失敬な。相手の男の慈しみが足りなかっただけではないのか。そなたがこんなに淫らな顔をするなど……っ、考えてもいなかったぞ」 「わ、私、だって……! ヴォルクさんがこんなにいやらしいなんて、思いも……ッ。ん、ああっ……」 「……そなたが相手だからだ」  ――今さらセックスに、期待なんてしていなかった。ケイにとってのそれは、多少の快楽はあれど男の欲を満たすのが主体で、そこに喜びなどなかった。  もう三十路だから、もう子供もいるんだから、乱れるなんてありえない。……そう思っていた。今夜までは。  けれどヴォルクに深い快楽と情を与えられ、ケイはしがらみから解き放たれたかのように激しく乱れる。 「あっ、……もちいい……ッ。あっ、アッ! ヴォルクさ――、はっ、んああ…っ、ヴォルク――。……あ、あああ……ッ!!」 「ケイッ……! ん、ぐ……っ、出る……っ。う……!」  思考がかすみ、何も考えられなくなる。ヴォルクにしがみつき、のけ反って悶えたケイはとうとう果てた。  瞬間、中がヴォルクの熱を強く締め付け、絡め取るようにうねる。ケイに引きずられるようにしてヴォルクは最奥で静止すると、震えながら精を放った。 「……は……、はぁっ……、ふぅ……っ」 「…く……、はぁ……っ、……は……」  吐精は何回か続いた。生だからか、先端からほとばしったものの熱はもちろん、ヴォルクの幹の脈動まで感じてしまいケイはひそかに顔を赤くする。  すべてを吐き出すとヴォルクが力尽きたようにケイの上へとへたり込んだ。  汗に濡れた体を受け止め、二人揃って激しい息を整える。……結果的に、化粧を落としておいて本当に良かった。  先に少し息が落ち着いてきたケイは、ヴォルクの背中を撫でながら口を開いた。 「できましたね……」 「……?」 「私たち、最後までできましたね……! 良かったぁ……」 「……っ」  安堵と、そして達成感めいたものすら感じてケイはへらりと笑った。互いのトラウマを乗り越えてできたこれは、初めての共同作業とも言えるのではないだろうか。  目を見開いたヴォルクが眉を歪め、ケイを固く抱きしめた。繋がったまま、耳元でささやく。 「……愛している」 「!?」  この場でもらうとは思っていなかった言葉に、ケイは照れるよりも喜ぶよりも先にぎょっと驚いた。顔を上げたヴォルクがもう一度同じ言葉を告げる。 「愛している。……(ねや)で初めて言うなど、体目当てと思われるかもしれんが。……そなたを愛している。嘘偽りない、心からの気持ちだ」 「……あ、ありがとうございます。あの、体目当てとか……思ってないですよ? ヴォルクさん、そんなに器用じゃなさそうですし」 「……そうだな」  真摯な言葉に顔が熱くなり、照れ隠しに告げるとヴォルクが小さく苦笑した。彼はもう一度ケイを包み込むと、穏やかな声でささやいた。 「……ありがとう。今、本当に……幸せだ」  繋がったままだったのを思い出し、ヴォルクが身を引くとどろりと精が逆流した。慌ててケイが手で押さえようとすると、シーツに垂れる寸前でヴォルクが布を差し出した。  そのままスマートに後始末をされ、ケイは寝転がったまま気恥ずかしく待つ。喉が渇いて、水でも飲もうかと起き上がろうとするとケイは異変に気付いた。 「あれ……? あれ?」 「どうした」 「脚が……。動かないです」  膝を立てようとすると、へにゃりと外側に倒れてしまった。曲げることはできるが、キープできない。  さらには内腿がぶるぶると痙攣し、生まれたての小鹿のように立つことができなくなっていた。これは―― (久しぶりすぎて、麻痺してる……!? あっ、体ぶ厚いし、めちゃくちゃ開かれたから――!) 「…………」  カカーと顔が赤くなっていく。察したヴォルクがケイの膝に手を置き、こちらも赤くなりながら告げた。 「すまん。……長かったな。じきに戻るとは思うが、辛抱してくれ」 「はい……」  ぷるぷる震えながらうなずくと、なだめるようにキスを一つ落とされた。
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