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私の5つ年上の従兄弟に、信彦という男性がいる。
彼は、中学生の時から梨花という女性と付き合っており、高校を卒業してから直ぐに結婚する程、深くお互いを愛し合っていた。
やがて、信彦と梨花には、数年後2人の子供が誕生する。
育児が大変だということで、梨花の実家に同居することにした信彦一家。
ところで、梨花の実家には、彼女が生まれた時に植樹した記念樹がある。
とても美しい椿の木だ。
梨花は常々、信彦に伝えていた事がある。
「私が死んだら、この木を私だと思って大切にしてね」
そんな梨花が、ある日、交通事故で亡くなってしまう。
仲の良かった二人だから、きっと落ち込んでいるだろう――私達は信彦を心配する。
しかし、葬儀の最中の信彦はどこか上の空で、喪主の挨拶などが終わると、すぐにどこかへ抜け出している様だった。
(まさか、後追い自殺でもするつもりなのか?)
心配になり、私達は後をついていってみる。
すると信彦は庭に出て、件の椿の木に話しかけている様だった。
椿を「梨花」と呼び、大層愛しそうに話しかける信彦。
友人達は恐怖のあまり半ばパニックになり、信彦を掴むと、椿から引き離そうとする。
瞬間、風もないのに揺れる椿の葉。
その葉音に混じって――、
「ウフフフフフ」
何処からともなく聞こえてくる女の笑い声は、間違いなく梨花の声だった。
その夜から、椿を梨花と思い、生きる様になってしまった信彦。
彼は今も椿を梨花と思い、日々愛を囁いて暮らしている。
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