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(終)事件、解決する
「というわけで、久須野良也も白井百合花も全面的に罪状を認めています。
ただ、我々の目では主導的立場は白井百合花で間違いありませんが、
直接的に殺人教唆となる言葉は使われていないようなので、
裁判ではどうなることやら……ってところですね」
「そうだな。過去の事例を見ても、
理解に苦しむ判決ってのは枚挙にいとまがねえからな」
「担当する裁判長がまともな人間であることを祈るばかりですね」
「全くだ」
深く頷きながら神里はコーヒーを啜る。
慶田大学の神里の研究室にて、神里と藤本、千波と深井がソファで向かい合わせに座っていた。
久須野と白井を逮捕してから2日後のこと、事の顛末を報告する為に千波と深井が研究室を訪れたのだ。
「そうそう、2年前に自殺として扱われた糸田悟郎さんの件も、
殺人事件として再捜査されるみたいですよ」
「そうか。そいつは良かったな。
息子の苦労も少しは報われるだろう。なあ、藤本」
「え? あ、そうですね」
突然話を振られて、藤本は曖昧に返事をする。
そんな彼の頭には白い包帯が巻かれていた。
「ところで、糸田さんのご家族は……どんな反応をしてましたか?」
「最初は泣いて困惑してましたが、“こんな事になったのは自分たちのせいでもあるから”と言ってました。これからは家族で糸田さんを支えるそうですよ」
「そうですか。それは良かった」
藤本がほっと息をつくと、神里がその背中をポンと叩いた。
更に千波が話を続ける。
「それから、ずっと鑑定中だった兼河さんの死因なんですが、
脳挫傷であることが確定しました」
「刺し傷の方は死因に当たらなかったのか」
「はい。だから糸田さんは殺人罪には問われないですね」
「そいつは朗報だな」
「まあ、さすがに無罪というわけにはいきませんが、
自首しているので大分罪は軽減されると思います」
「ほう。そうか」
「彼の場合、情状酌量の余地もありますからね」
「まあな」
神里が腕組みをして頷く。
その時、藤本が小さく挙手をした。
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