(1)教授、相談を受ける

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(1)教授、相談を受ける

東京のビジネス街の一角に、重厚な雰囲気を漂わせる建物がある。 私立の名門・慶田大学。 学生の自主性を尊重する校風の為か、外観の重厚さとは裏腹に学内はいたって開放的だ。 春先ということもあって浮かれた様子の学生が目につく。 そんな中、明らかに学生でも教員でもないスーツ姿の二人組が颯爽と校内を歩いていた。 「はあー、慶田大学の中ってこんな感じなんですね」 「あら、深井君はここに来るのは初めて?」 「はい。自分、生まれも育ちも大学も関西の方なんで」 「そう。じゃあ、色々と新鮮に映るかもね」 二人組の内の一人は、千波京子(せんなみきょうこ)。 すらりとした長身に凛とした顔つきが印象的な女性である。 もう一人は、深井圭市(ふかいけいいち)。 いかにも体育会系上がりといった、さっぱりとした青年だ。 立ち並んで歩きながら、二人は更に会話を続ける。 「でもまあ、私立の名門として学校名は有名ですけど、  学生の雰囲気はどこも似たようなもんですね」 「関西の大学もこんな感じの雰囲気だったの?」 「ええ。どいつもこいつも調子こいてるような連中ばかりでしたよ」 「まあ、大学生って人生で一番自由で開放的な時間だから。多少はね」 「正直、羨ましいですね。さっき通りすがった女の子たちなんて、  早速合コンの話とかしてましたよ。俺も出来ることならあの頃に戻りたいです」 「大人ぶって懐かしがってるんじゃないわよ。  あんたも割と最近まで大学生だったでしょ」 「そうですけど、警察学校に入ってからはもうずっと忙しくて、  大学時代のことなんて思い出す余裕も無かったですから」 「そう。じゃあ、今の内に覚悟しておくことね。うちの課に来た以上、  これからもっと忙しくなるのは確定だから」 「えぇ……マジすか」 千波の言葉を受けて、深井が大きなため息をつく。 二人は警視庁捜査一課の刑事だった。 先輩の千波が、指導を兼ねて新入りの深井を連れているのだった。
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