105人が本棚に入れています
本棚に追加
必要な話は聞き終えたと判断して、藤本は糸田の肩に手を置いた。
「やはり、自首してあるがままを警察に話しましょう。
貴方は久須野さんの従犯となるので、更に罪は軽くなるはずです」
「でも……」
糸田は尚も顔を苦しげに歪めたまま首を横に振った。
「もしかしたら、本当は俺が兼河さんを殺したのかも知れない」
「どういうことですか?」
「兼河さんを殺したのは久須野さんだと、
そう信じたくてそう思い込むようにしてたけど……
でも、もしかしたらあの時の兼河さんは実はまだ息があって、
俺が後から刺したのが原因で死んだんじゃないかって……
もしそうだったら俺は……」
「だとしても、あるがままの真実を伝えるべきです。
それが貴方にとって一番マシな選択になるはずです」
「……」
糸田はしばらく無言で俯いた後、静かに顔を上げた。
「分かりました」
ゆっくりと首を縦に下ろした糸田を見て、藤本は小さく息をつく。
説得に成功した、と胸を撫で下ろしたのだ。
そんな彼を、糸田は真っ直ぐに見つめた。
「藤本さん」
「何ですか?」
藤本が問うと、糸田はサイドテーブルに置いていた彼のショルダーバッグを手に取った。
そして中から一冊の手帳を取り出す。
それは茶色い革カバーの付いたシステム手帳だった。
最初のコメントを投稿しよう!