(28)教授、焦る

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教授会を終えた神里は、大学職員に体を支えられながら自身の研究室に辿り着いた。 ゆっくりとソファに腰を下ろす。 それから大きく息をついた。 つまらない会議と腰の痛みに耐え抜いた疲れを吐き出したのだった。 「藤本、コーヒーを頼……」 いつもの感じで助手に話しかけようとするが、今はここに居ないことを思い出す。 「あいつ、まだ戻ってねえのか」 舌打ちまじりに窓の外を見やる。 時刻は5時半を少し過ぎた頃。 とうに日は暮れて、空は宵闇に覆われていた。 「説得は……どうなってるかな。ちょっと様子を伺ってやるか」 懐から携帯端末を取り出す。 その時、電話の呼び出し音が鳴った。 そこに表示されていた名前は、ぼんくら狸こと宇崎頼晴だった。 忌々しげに顔を顰めつつ、神里は電話に出た。 「何の用だ、クソ雑魚馬鹿狸」 『開口一番でガキみたいな悪口を言うのはやめろ。  生憎、今はお前の相手をしている余裕が無いんだ」 「何かあったのか?」 『ああ、久須野良也と白井百合花の潜伏先を特定して  乗り込んだまでは良かったんだがな』 「奴らは何処にいた?」 『山谷の宿泊所にいたよ。お前の見立て通りだった』 「そうか。それで、何か問題でもあったのか?」 『ああ。俺たちが部屋に辿り着いた時、久須野は居なかった。  白井百合花だけが部屋の中に居たんだ』 「久須野は女を置いて自分だけ逃げたのか?」 『いや、奴の荷物は部屋に置いたままだったから、  いずれ戻ってくるつもりでどこかに行ったんだろう』 「じゃあ、そこで待っていれば良いだろう」 『もちろん、捜査員を何人か待機させている。  だが、このまま久須野が1人で逃亡する可能性もある。  逃げられると厄介だ。早いうちに奴を確保したい』 「女は? 白井百合花は何て言ってる?」 『それが、何も知らないの一点張りなんだ。  こっちとしても、まだ令状は取れてないからあまり強く出られないのが現状だ』 「ふむ、そうか」 『そういうわけだ。久須野が行きそうな場所について、お前の意見をくれないか』 「そう言われても、こんな薄い情報だとなあ……」 さすがの神里も困り顔で天を仰いだ。
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