(28)教授、焦る

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「警察に追われていることを知りながら、奴は出掛けた。  危険を承知で、やらなければならない用事があったわけだ。  ……ということは、その用事は警察に見つかるリスク以上に利得があるはず」 考えを纒める為に、思考をそのまま口に出す。 その時、ふと神里の脳裏に昨夜の出来事が思い起こされた。 久須野に突き飛ばされた糸田が、タクシーの目の前に飛び出てきた時のことが。 「……そうだ、奴は糸田を殺すつもりだった。だが、それは未達成のままだ」 『おい、何の話だ?』 神里の独り言に宇崎が反応する。 が、構うことなく神里は思考を続けた。 「もし、奴の思惑通りに糸田が死んでいたら、どうなっていたか?  そのまま事故死として処理される?   だとしても警察は介入する。  その時に兼河殺しの事件の犯人の1人であることが判明でもしたら  ……死人に口無しで、全ての責任を糸田に押し付けることが出来る」 結論に辿り着いた神里が、苦々しい顔になる。 『おい、神里。さっきから何を言ってるんだ、お前は』 「宇崎」 『何だよ?』 「柚芽総合病院だ」 『病院?』 「そこに糸田哲大という男が入院してる。  奴はそこに向かったんだ。糸田を殺す為にな」 『は? 何を言ってる?   何で久須野が糸田とかいう男を殺す必要があるんだ?』 「それは……とにかく柚芽総合病院だ。急げ!」 電話口の向こうで宇崎がまだ何か言っていたが、神里は強引に通話を切った。 宇崎にしてみれば、糸田の存在も、久須野が彼を殺そうしていることも突然降って湧いた話だ。混乱するのも無理はない。 だが、とにかく一刻も早く警察に柚芽総合病院に行ってもらう必要があった。 (下手すると藤本が久須野と鉢合ってしまうかもしれん) 神里は急いで藤本に電話を掛けた。 まずは無事を確認して、それからすぐにその場を離れるよう指示する為に。 (さっさと出ろ……!) 鳴り続けるコール音に、神里は苛立ちを募らせた。
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