(29)助手、殴られる/教授、殴る

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「うおっ!?」 不意に久須野が素っ頓狂な声を上げる。 その直後、金属が床に叩きつけられる音が響いた。 何事かと思い目を開けると、床に倒れて蠢いている久須野の姿があった。 更に、久須野の足に絡みつき彼の動きを抑えている藤本の姿があった。 「ふ、藤本さん!?」 「逃げて下さい、今すぐに」 頭から血を流しながら、それでも藤本は冷静な顔で糸田を促した。 糸田も慌ててベッドから降りようとするが、右足の痛みで立ち上がることが出来ず床に転がり落ちてしまう。 「うう……くそっ……!」 床の上を這うような形で糸田は出口を求めた。 が、思うように前に進めない。 そんな彼に藤本が呼びかけた。 「糸田さん、何とか頑張って廊下まで出て誰かに助けを求めて下さい」 「でも……」 「死ぬほど痛いかも知れませんが、殺されるよりマシだと思って頑張って下さい」 「うう……」 「じゃないと、全ての罪を押し付けられてしまいますよ。  さっきの久須野さんの話もバカバカしいと思うかもしれませんが、  死人に口無しで全部貴方のせいにされてしまう可能性はあります。  過去の判例からして十分にあり得るんです」 「そんな……」 「それが嫌なら頑張って外に出て下さい。  とにかく貴方が生きてさえいれば何とかなりますから」 「くっ……」 藤本の言葉を受けて糸田は懸命に床を這い、扉の向こうを目指した。 「くそ、離せ! このクソガキ!」 久須野が右足に絡みついた藤本を引き剥がそうとするが、彼は必死に食らいつく。 そうしている内に、糸田が病室の扉にまでたどり着いた。 「くそ、待て! 待ちやがれ!」 久須野が尚も藤本を引き剥がそうともがく。 だが、藤本も懸命に久須野の足を抑え続ける。 そうしている内に、扉を開けた糸田は這った体勢のまま体を外に出した。 (……よし、なんとかなった) 軽く安堵した瞬間のことだった。 「うあっ……」 強い衝撃を喰らって藤本の体は床に転がった。 久須野の右足による蹴りが炸裂したのだ。 ここまで必死に抑えていたのだが、安堵とともに力が抜けた瞬間を狙われたのだった。 「うう……」 痛みで動けないでいると、いきなり強い力で胸倉をを掴み上げられる。 見れば、久須野が鬼の形相で睨み付けていた。 「テメェ、よくもやってくれたな」 「すみません」 「ぶっ殺してやる」 「構いませんが、得策ではないと思います」 「知ったことか! お前をぶっ殺さないと俺の気が済まねえんだよ!  大体、お前のことは昔から気に食わなかったんだ。  原型が分からなくなるまでボコボコにして壊してやるっ!」 「あ、本当は覚えてたんですね。僕のこと」 「煩えっ!」 叫ぶ久須野の手にはスパナが握られていた。 高々と振り上げられたそれは、照明の光を反射して残酷に光る。 その刹那──
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