介護士と看護師

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介護士と看護師

 いろいろな職員がいる。仕事の速い人、遅い人。時間前に来て、サイボーズと日誌をチェックして、もう動いている人。ギリギリに来て、それから始める人。別に後者でいいのだ。時間前に来い、というのはパワ・ハラになるそうだ。  私は初め、必死で覚えた。10人分の食事形態。紙にテーブルの絵を書いて。入居者の名前、配置、ご飯か粥か、はたまた混ぜ合わせた軟飯か、またはパンか、おかずはそのままか刻みか、ソフト食か、汁物にとろみ剤が○ミリリットル、茶碗は大、中、メラミンか、箸かスプーンか……  頭の中にイメージできていないとスムーズに動けない。  しかし、新人に家で覚えてこい、とは言えないそうだ。だから、いつになったら覚えるのやら? パートのいないときはすべて自分でやるのだよ。ネコヤナギさんが怒り出す。 「はやくしてくれよ。バカヤロー。ぺーぺーか」  焦らないで。焦ればろくなことはない。茶碗割ったり牛乳ぶちまけたり……ソフト食の人に刻み食を出したら大変。ソフト食の人は、むせたら大変。ナースを呼んで吸引。しょっちゅう吸引。ナースは言う。30分かけて食べさせろ、と。  速い人は速いなり……夜、部屋のカーテンが閉まっていない。入居者に注意される。工程を省けるように、汚れたパットを入れるバケツの蓋は開けっ放し。それをしまっておくドアも開けっ放し。  サカキさんは、取るよ。汚れたグローブを。サカキさんはゴミ箱からも取るし、残菜も食べてしまうから徹底しないと。  パジャマの上に服を着てる。入居者が自分で着たのだ。それをそのままリビングに連れてくる。サイボーズに注意が。 「あなた、その格好で人前に出ますか?」  食事の前に入れ歯をはめていないことに気づいた。さてどうする? 職員は早足で部屋に行き、入れ歯を持ってきてはめる。ダメです。皆の前で入れ歯をはめてはいけません。 「あなたもそうされたらいやでしょう? 部屋に連れていってはめてください」  前のリーダーならそう言っただろう。車椅子押していってらっしゃい……几帳面だった。  引き出しを開ければ牛乳パックで細かく仕切ってある。他の場所にはぜったい置くな! というように。薬もひとりひとり牛乳パックを切った箱に。マーキングテープを棚に貼って定位置に。他のところには置けません。    カリンさんがまたトイレ。私は言ってしまった。 「カリンさん、オシッコ? トイレ行く?」 前の前のリーダーは飛んできた。 「今のはダメです」 「は?」  今は注意する人がいない。 「カリンさん、○○コ出る?」 私より大声で…… 「あなた、人前で言われたいですか?」 「あのー、今のはいけません。私は注意されましたよ」  ゴキブリが出た。入居者の部屋には、個々で食べる菓子の食べこぼしが……キッチンにも出た。スタッフはきゃあきゃあ騒ぐ。男のリーダーまでが。ようやくスプレーをかけ、弱まって動かなくったのにつかめない。男のくせに情けない。私が処理した。 「さすが」  申し送りの時に職員が見当たらなかった。ナースを待たせては悪いと思い、私は代わりに伝えようとした。何度かある。ファイルを見て10人の便秘が何日目、変わったことがないかを伝えるだけだ。  ところが、入ったばかりの派遣のナース、ユニット中に響き渡る大声で言った。 「あなたァ、身体介護、できるんですかァー?」  微妙。立位の取れる人ならね。  体格のいいナースは、ヤドリギさんに『百貫デブ』と言われていた。気の毒だと思っていたのだ。ドアを塞ぐほどの幅広さ。  声に圧倒されて、私は答えなかった。職員が来て離れた。  ナースは介護士より上だという意識がある。ましてや、私は短時間のパート。小声で言ってくれたならこちらの態度も変わっていたが。その言い方はないだろう? 2度と申し送りはしません。    この派遣のナースは契約更新をしなかった。古株のナースはあなたより怖いだろう……  この間も廊下を歩きながら電話していた。 「あなたァ、何年やってるのォ? 誰が……しろって言ったァ?」 ネチネチ、ネチネチ…………  ナースの入れ替わりも激しい。
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