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この世のつまらない基準や概念など全て失くなってしまえばいいのに
ショーウィンドウに飾られた美しいシャイニーカラーのピンヒールのストラップサンダルに目を奪われ私は立ち止まる。恐らくは8cmはあるヒール。急に立ち止まった私の顔を私より背の低い彼は少し見上げるように覗いた。たまたま好きになった人の背が私より低かっただけ。私が女としては少し背が高かっただけ。彼は人間的に素晴らしい人なのだ。だから私は彼を好きになった。例え私より背が低くてもそんなことはどうでも良かったのだ初めのうちは。同じ大学の友達に偶然見られからかわれるまでは。だから彼と会うときはペタンコのフラットシューズを選んだ。それしか選択肢がないのだ。私が今目の前のショーウィンドウの中にあるヒールを履いたら大袈裟に言えば頭ひとつ違うと言っても言い過ぎではないのだ。こんな踵の高いヒールを履いて彼と腕を組んで歩いてみたい。ショーウィンドウのヒールに見入る私を彼はほんの少しだけ物憂げな目で見ているような気がした。高身長高学歴高収入の三高はいつの時代も変わらない。母の若い頃もそうだったらしい。幸いにも父は168cm母は153cmとバランスのとれたカップルだ。しかしそんな低身長の親から父よりも背の高い170cmもある娘が生まれ育つとは不思議なものだ。私の彼はようやく160cmあるかどうかの背丈だ。しかし人間の価値はそういうものではない。時々そのことで悶々とする度に自分に言い聞かせた。ショーウィンドウに夢中になっているうちにふと気づけば隣にいたはずの彼がどこかへ消えてしまっていた。私は辺りを見回した。日曜日の夕方は幸せそうな恋人たちが腕を組み少し背の高い彼の腕にぶら下がるように歩くのばかりが目についた。少し悲しい気持ちと突然彼がどこかへ去ってしまった不安で少し涙目になっていた。すると今まで私がヒールを見入っていた店から彼が包を抱え慌てて出てきた。
これ欲しいんだね?
知ってたよキミがいつもカカトの低い靴しか履いていないこと
だから最後のプレゼント
次はもっと背の高い男を見つけなよ
ありがとう
それだけ言うと彼は走り去り日曜日の繁華街の人混みに消えて行った
涙落ちないで今は
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