高校生活

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高校生活

 龍央高校に進学し、沙耶は高二に進級した。  櫂人とはクラスが違ったし、顔を合わせても知らないふりをしていた。  沙耶達の母校では両家の話は知れ渡っていたが、高校は県内各地から生徒が来ているので、知る人が少ないのが不幸中の幸いだった。  沙耶はチア部には入らず、帰宅部になった。櫂人を応援できないなら、入る意味はなかった。  櫂人も陸上を辞めていた。  最初は「何故?」と驚いた。でも、理由は想像できた。  小さい頃、幼稚園のサッカー教室に入った櫂人は、こっそり沙耶に「辞めたい」と打ち明けていた。体と体を接触させてまで球を奪い合うというのが、彼には向いていないのだ。  ある時櫂人は、走るフォームが綺麗、速いと褒められて、走ることに興味を持った。それから櫂人はマラソンが趣味の父と一緒に走るようになった。  中学になり競技は走り高跳びに変わったけれど、櫂人にとって陸上は父との思い出なのだ。  その上、自分の応援で母が留守をしていた間に、父は浮気をしていたのだから──。陸上に向き合えなくなる気持ちは理解できた。 「桂木さん」  二年の新学期が始まってすぐ、沙耶は放課後の廊下で見知らぬ女生徒に声をかけられた。  ショートヘアの綺麗な子で、『Track and Field』と書かれたTシャツにジャージ姿だった。陸上部の子だ。 「私、陸上部の二年のマネージャーで川端絵里(かわばたえり)っていいます。久世君のことなんだけれど」 「え? 櫂人の?」  突然のことで驚いた。 「うん。中学で二人が仲良かったこと、同じ中学の子から聞いてるんだ。その、いろいろあったことも……」  絵里は言い淀んだが、親の不倫と離婚のことだと沙耶は察した。 「久世君が陸上辞めちゃったことも、それが関係してるよね。でも安心して。久世君、陸上再開したの」  櫂人が陸上をまた始めた──。それはとても嬉しい知らせだった。でもそれをわざわざ自分に伝えるのは何故だろう。沙耶は首を傾げる。  「これからは私が久世君を支えるから、安心してね」  そう言って微笑むと、彼女は去っていった。  廊下に取り残された沙耶は、「沙耶! 帰るよ」と後ろから加奈に声をかけられるまで立ち尽くしていた。
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