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多くの部では三年生は夏に引退して受験勉強を始めているので、非公式とはいえこの龍明戦は二年生が最高学年として初めて挑むデビュー戦の様相を呈していた。
文化部にも出番はあった。吹奏楽部やチア部は応援団として、写真部は写真撮影、新聞部は取材に忙しい。
自主自律の両校だけに、大会運営も生徒が中心だ。教師は審判や運営補助にしか関わらない。役目のない教師、生徒、それに保護者は、各競技会場を応援しに周る。
龍央高校二年の沙耶も帰宅部だったので、今日は一日応援だ。
龍明戦はとにかく会場が多く、同時刻にあちらこちらでいろいろな試合があるため、人気の競技には生徒や保護者が集まるが、人気のない部活の応援席は閑散としている。
陸上競技は県の陸上競技場を借りて行われているのだが、今年は龍央側に県大会に出場した短距離のホープ、高原がいるので、例年よりは多くの観客が集まっていた。
四継は両校二年と一年の二組ずつ、計四組によって行われたが、二年の二走だった高原は直前に欠場。変わりに補欠の久世櫂人が入り、走順が入れ替えられていた。
高原なしでも健闘はしたのだが、明陵二年が1着、龍央二年が2着、明陵一年が3着、そして龍央1年が4着となってポイントで負けてしまった。それでさっきのブーイングが起きたというわけだ。
(まだ競技はあるのにな……)
観客が減ってしまったスタンド席を見て、沙耶は呟く。
陸上競技部の対抗戦がすべて終わったわけではない。このあとも、トラックでは長距離が、フィールドでは走り高跳びや走り幅跳びの競技がある。
「それに櫂人だって、専門じゃない四継を自分の競技前に頑張って走ったのに……」
何も知らない二年男子の文句が腹立たしかった。
補欠で走った櫂人は、沙耶の大切な幼馴染だった。
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