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「櫂人君ママ……」
沙耶の心臓がドクンと鳴った。
「一緒に見ていい?」
「は、はい」
沙耶は戸惑いながら肯き、佳子は沙耶の隣に座った。
お互い少しぎこちなかった。こうして並んで話すのは沙耶が中三の冬以来だ。
龍明戦とはいえ、陸上部を見に来たことを沙耶は後悔していた。
「沙耶ちゃんとこうして応援するの、久しぶりね」
そんな沙耶の想いを知らず、佳子が懐かしそうに話す。
「そうですね」
答える沙耶も、あの頃のことが懐かしく蘇ってきた。
中学生の頃、土日に櫂人の大会があると、沙耶と佳子は必ず一緒に応援に行ったものだった。
お昼休憩には一緒にお昼を食べながら、櫂人の記録の話で盛り上がった。
(でも……)
その間に、沙耶の母と櫂人の父は逢瀬を繰り返していたと、あとで知った。
そして沙耶と櫂人の受験が終わり、二人が無事に龍央高校に合格したその翌日、沙耶の母と櫂人の父は置手紙を残して駆け落ちしたのだった。
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