家族ぐるみ

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家族ぐるみ

 二つの家族は同じマンションに住んでいた。産院も同じ。  出産前に産院で開かれた赤ちゃん教室に夫婦で参加し、家族ぐるみの付き合いが始まった。沙耶は櫂人より一週間遅れて誕生した。  出産後は公園デビューも幼稚園も一緒、誕生日やクリスマスを共に祝い、キャンプや旅行に行くこともあった。  一人っ子同士の二人は、まるで双子のように育ってきた。  それが……。  櫂人の父と沙耶の母は、明陵高校出身だった。  学年は違い、面識はないと言っていた。でも実は高校時代、沙耶の母は生徒会長の櫂人の父に憧れ、櫂人の父はミス明陵と呼ばれた沙耶の母を知っていた。 (龍央にして良かった)  沙耶はそれを知った時、心底そう思った。  陸上部が強い龍央に櫂人が進学を決め、沙耶も櫂人が一緒ならと決めた。これが二人ともが明陵だったら、入学を躊躇したかもしれない。  沙耶の父が多忙で休日出勤が増え、沙耶の母は放っておかれているようで不満を募らせていた。  櫂人の父は経営する会社が傾きかけ、バリバリ働き一家を支えようとする櫂人の母に引け目を感じていた。  そのほか理由を挙げればきりがなかった。  親戚や友人の尽力で二人は一度、この街に連れ戻された。そして夫婦で、四人で話し合った。  しかし落花(らっか)枝に返らず──。  二組の夫婦は離婚を選択し、沙耶の母と櫂人の父は二人でこの街を出た。沙耶の親権は父に、櫂人の親権は母に渡った。  そして櫂人は母とマンションを出て、同じ市内にある母の実家に引越した。  沙耶と父はそのままマンションに残ることになった。近所の目が気にならないと言えば嘘になるが、住み慣れた家を離れて頼る実家が父にはなかった。
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