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母の、父の身勝手のせいで、沙耶と櫂人の関係は変わってしまった。元の二人に戻れるわけがなかった。
互いの母、父が、互いの父、母を奪ったのだ。
沙耶の父はそれでも強かった。
「こんなことになり沙耶には本当に申し訳ない。父さんも頑張るから、沙耶も一緒に頑張ろう」
そう言って、沙耶の笑顔を取り戻そうとしてくれた。
でも沙耶が休んだあと、一人で強い酒を飲んでいるのを沙耶は気付いていた。
櫂人の母は……。
引越しの前日、沙耶は櫂人にマンション近くの公園に呼び出された。
早咲きの桜が満開を過ぎ、はらはらと散っていた。その木の下のベンチに並んで座る。
目の前の砂場では、昔の沙耶と櫂人を彷彿とさせる女の子と男の子が無邪気に遊んでいた。
「ごめん。もうお前とは前みたいになれない」
しばらく子供達を見てから、櫂人が言った。
「わかってる」
それは沙耶も同じ。当然だと思った。
「母さん、かなり堪えていて仕事も行けてないんだ。俺が支えなきゃと思ってる」
“夫を盗られた”その憎しみは、夫より相手の女に向くものらしい。それがママ友として信頼していた相手だから、ダメージはより大きかった。
「うん。わかってる」
沙耶の場合、櫂人の父を恨むというより、母であり妻であることより“女であること”を選んだ母への嫌悪感が酷かった。だから、櫂人の母の気持ちがなんとなくわかった。
「元気でね」
「ああ。沙耶もな」
幼馴染の友情は終わった。
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