90人が本棚に入れています
本棚に追加
「何、それ。マウント?」
寄り道のファストフードで、櫂人とのことを知っている加奈に話したら、加奈は憤慨していた。
「やだ、もう私と櫂人は関係ないもん」
「ああ、もういやだな。現代版ロミオとジュリエットじゃん」
幼馴染から淡い恋に変わりかけていた沙耶の気持ちを、親友の加奈は知っていた。
その後、絵里の言葉通り、校庭の走り高跳びのバーの前で櫂人を見かけるようになった。
それが絵里のお陰だとしても、沙耶は嬉しかった。
でももう応援には行けない。それが寂しかった。
季節は変わり、期末テストも終わりもうすぐ夏休みという頃。
加奈に呼ばれて沙耶が駅前のカフェに行くと、陸上部で同じクラスの雪奈が加奈と共に待っていた。加奈はパフェを奢るからと、雪奈を呼び出したらしい。
「で、さあ、久世君と川端さんってどうなの?」
加奈が聞く。
「うん、仲いいよ」
雪奈はパフェのメロンを頬張りながら答えた。
「でも付き合ってるのかはわからない。久世君って静かだしさ、川端さんは皆にフレンドリーだからよくわからないんだよね」
「ふーん」
はっきりしない答えに加奈は不満そうだった。
「記録は? 久世君の記録はどう?」
沙耶は思い切って聞く。
「ああ、記録、伸びないって言ってたね」
跳躍班の班長の三年生が、部室でデータを見て話していたという。櫂人の中学生の時の記録が1m74だった。しかし、今はそこまで跳べていないという。
「やっぱり一年間、休んでたのが大きいなって話してたよ」
(そうなんだ……)
沙耶は顔を曇らせる。
あの記録を伸ばしてみせると誓った櫂人の、輝く笑顔を思い出して辛くなった。
最初のコメントを投稿しよう!