「問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか」議事録

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「問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか」議事録

ウラヌス(生徒会長):では今回の生徒会会議では先日発生した「毒入りチョコ」事件の容疑者であるアース・クリスタについて話し合おう。手元の資料を見てくれ。 ──────   【今回の議題】 三日前に起きたネプチュン毒殺未遂事件の容疑者であるアース・クリスタが有罪かどうか。 【事件概要】 三日前の晩、今回の事件の被害者であるネプチュン・ティフィー(一年生・女性)が自室を訪れたアース・クリスタ(二年生・女性)から渡されたチョコレートを食べたところ、手足の痺れや吐き気等が発症し、寮母に告発し、発覚。 ────── ウラヌス:被害者ネプチュンの話によると、アースは以前からネプチュンに数多の嫌がらせを行っていたという。今回はその「謝罪」ということで、アースはネプチュンの部屋を訪れた。そして例の毒入りチョコをネプチュンに渡し、部屋を去った。発覚後、先生方が自室で眠っていたアースを拘束して今に至る、と。 サターン(被害者ネプチュンのファン):話し合う必要もないでしょう! この資料に全て書いてある。あの極悪令嬢が有罪だって、その一文字一文字が語っています!! あの悪魔女を即刻この学園から追い出すべきだ!! マーキュリー(薬草オタク):そうね。私もそう思います。アース様の評判は入学当初からかなり悪かったです。今回の事件を聞いて、正直納得してしまいました。あのご令嬢ならいつかやりそうだと。あの闇のオーラも気味が悪くて、彼女が傍を通るとすぐにわかるくらいだし……。こう、ぞわぞわっとするというか……。 マーズ(副会長。ウラヌスの婚約者):では、最初にそれぞれの立場を定めましょう。アースが有罪だと思うものは手を挙げて。 ウラヌス以外、全員手を挙げる。 ジュピター(闇魔法使いをよく思っていない):ウラヌス会長? どうして手を挙げないのですか? ウラヌス:どうして? ジュピター、どうして僕が手を挙げないことが当たり前のことのように思っているんだい? ジュピター:それは……。 マーズ:つまりウラヌスは彼女を無罪だと? ウラヌス:確信はないよ。ただ、その可能性もあると思っている。ひとまずもう一度証拠を整理して皆で話し合いたい。 マーズ:……。では、今回の証拠をまとめましょう。手元の資料、二ページ目を開いてください。 ────── アースが有罪である証拠①、目撃者がいる。目撃者はネプチュンの親友であるメテオ。事件当日、彼女はアースが包装された箱を持ってネプチュンの部屋に入っていくのを見たという。目撃の時間も包装の特徴も一致していたため、信憑性は高い。 証拠②、毒物が混入したチョコを実際にネプチュンから押収している。 証拠③、制約魔法を施した上で今回の事件のことを尋問した際、アースは一切無言だった。なにか話したくないことがあるのは明白である。 ──────   マーキュリー:これだけ証拠が揃っているなら、有罪に決まっています! サターン:そうです。絶対にアース・クリスタは有罪です! ネプチュンは惚れ薬を朝食に盛られてしまうくらいの絶世の美女で人気者だ! だからあいつは彼女の才能と美貌を妬んで嫌がらせをしている。そしてそれをみんなが知っている! この間だって、ネプチュンの大切にしている母の形見に紅茶をぶっかけたと聞いている! ヴィーナス(ジュピターの婚約者):あら、やけに熱く語りますわね、サターン先輩。ネプチュンさんと随分仲がいいとお聞きしましたわよ? サターン:……茶々を入れるのはよせ。私情は抜きにしても、証拠がこれだけそろっているのは事実なんだ。会長がいくら話し合おうと言っても、話し合うことはありません。だって事実が目の前にこうしてあるんですから。 ウラヌス:そうだね。では、どうして僕がアースを無罪かもしれないと思っているのか説明するべきかな。証拠は三つあるけれど、それらの証拠がどうにも矛盾しているように見える。 ジュピター:矛盾、ですか ウラヌス:そう。些細な疑問さ。まず、目撃者がいると言ったね。その目撃者の言葉が真実だという確信がもてない。 サターン:嘘はつけない! それは会長も分かっているでしょう! 何故なら制約魔法があるからだ。その魔法をかけられた者は投げられた質問に嘘はつけない。 ウラヌス:確かに目撃者は嘘はついていないだろう。だが、自分が嘘をついていないと思い込んでいる可能性もあるよ。……それに僕はこの証拠自体に違和感を覚える。 マーズ:つまり? ウラヌス:まず、目撃者の証言だけど……彼女は本当にアース本人を見たのかな。アースに変装した別の誰かだった可能性がないって誰が分かる? サターン:それは流石に暴論ですよ。そんなことを気にしていたら、会議なんて進まない! ウラヌス:でも可能性がある時点で問題なんだよ。今、僕達は彼女を有罪にするか無罪にするか、つまりは彼女をこの学園から追い出すか否かの判断を学園長から任されている。僕達が判断を誤れば、彼女は冤罪で学園を追放し、家も勘当され、何もできなくなる。 マーキュリー:そんな、大袈裟な! ウラヌス:そう思うなら君はこの会議に参加するべきではないよ、マーキュリー。君は家から勘当され、頼る親戚もおらず、独りでマトモに生きていける自信があるのかい? マーキュリー:そ、それは…… ウラヌス:では時間をかけてじっくり話し合おう。それで、僕がどうも引っかかっているのがこのメテオの証言。資料によると彼女は「午後八時頃、アースが包装された箱を持ってネプチュンの部屋に入っていく瞬間を確かに見た」と言っている。でも、どうしてその瞬間だけを見た人間がいるんだろう。 ジュピター:それが決定的な瞬間だからではないですか? ウラヌス:そうだね。決定的だ。でも、不思議なんだ。女子寮は学年によって部屋の階層が違う。アースは二年生だから二階、ネプチュンは一年生だから一階、それで間違いないね? 女性諸君? マーズ:そうね。間違ってないわ。 ウラヌス:それで、女子寮には二階から一階に降りる階段のすぐ傍に二年生の食堂があったはずだ。同じ構造で、一階の階段の真横にも一年生の食堂がある。午後八時はまだ就寝前だから、食堂で話をしている生徒達もいたはずだ。どうして彼女達はアースがあの食堂の前を通ったと証言しないんだろう。 マーキュリー:食堂は基本ドアを閉めているからですよ。誰か通ったって気づきません。 ウラヌス:でも君は先ほどこういったはずだよ。『アースの闇の魔力で、彼女が傍に通るとすぐにわかる』ってね。食堂はそんなに広くない。アースが食堂前を通ったならば十分知覚できる範囲だと思うんだけど。 マーキュリー:あっ……。 ヴィーナス:会長。実は事件当日、私も食堂で友人と自習をしておりました。が、アース様が食堂の前を通っていることに全く気づきませんでしたし、周囲もそうでした。つまりアース様は事件当日に少なくとも食堂の前を通っていない。それなら、彼女は浮遊して窓から出たりしない限りはネプチュンさんの部屋に行っていないということ。 ジュピター:闇魔法ですよ。闇魔法でネプチュンの部屋に瞬間移動したんだ! ウラヌス:それならネプチュンがそう言うはずだね。でも資料によると、「アースが部屋のドアをノックし、ネプチュンが彼女を招き入れた」という記述がある。 ヴィーナス:……私、意見を変えます。アース様は無罪だと思います。 ジュピター:ヴィナ!? ヴィ―ナス:気持ちは分かるけど、どうにも腑に落ちないのよ。私はアース様と同じ授業を選択しているから、一緒にグループワークをしたことがあるんだけれど……彼女はとても利口で優秀な女性だったわ。とても嫌がらせなんてするような、悪評通りの女性に見えなかった。もし私の主張が気に入らないのなら、論理的に私を説得してね。まずはどのような方法でアース様が皆にバレずにネプチュンさんの部屋に行ったのか証明してみせて。 ジュピター:ぐっ。 ウラヌス:そう。それこそ話し合いだね! *** ウラヌス:じゃあ次の疑問だけど……アースが作った毒入りチョコだ。彼女が事件前日にお菓子を作っていたことはおそらく事実だろう。調理室の使用許可申請書を提出しているからね。そして彼女以外、調理室には他にも誰もいなかった。 サターン:そうです。だから好きに毒を入れることができた!! ウラヌス:毒入りチョコにはマダリス草が使われていた。溶かすととても甘くなる草でね。お菓子には定番の甘味料だ。だけど、本当にそれは彼女が作ったのだろうか? マーズ:どういうこと? お菓子を作ったのは事実だろうってさっき貴方が言っていたじゃない。 ウラヌス:僕は薬草には詳しくないんだけどね。前に一度だけ、隣国の王太子から頂いたことがある。マダリス草を使用したお菓子はとても高価なんだよ。なんで高価かわかるかい? マーキュリー:私、それ知ってます! マダリス草は特殊な魔草で、魔法でしか溶けない。そのうえ急速に溶かしても甘味がなくなるので、三日はじっくり熱魔法をかけ続けないと溶けません! 手間と人手がとってもかかるので高価なんです。 ウラヌス:流石薬草学の神童、マーキュリーだ。その通り。マダリス草の菓子を作るのはすっごく手間と時間がかかる。だけど証言や証拠によるとアースは一日でマダリス草を溶かしてチョコにしていることになるね。 マーズ:草だけ先に溶かしていたんじゃないのかしら? 調理自体は事件前日で、入念な下準備していたとか。 マーキュリー:それはあり得ませんよ! マダリス草を保存するには温度・湿度・魔力温度の厳しい条件をすべてクリアした“環境”が重要なんです。うちの薬草部だったらその環境を整えることはできますが、アース様がうちの部にそんな依頼をした覚えもないですし……。 サターン:ではそもそもチョコは手作りではなく、買ってきたものだろう。それで、手のかかった手作りだと言って健気な自分を演じていたんだ。小賢しい! ウラヌス:いや、それはおかしい。そもそもアースが手作りだと言って何かをネプチュンに送るかどうかが疑問だ。サターンもさきほど言っていたように、今回の被害者であるネプチュンは人気者だ。一か月前に彼女の朝食に惚れ薬を入れられた事件があったくらいにね。 マーズ:たしかにあれは大騒ぎだったわね。犯人はすぐに見つかって退学になっていたけど。 ウラヌス:そんなネプチュンにそもそも手作りのものを送るだろうか? 僕はアースがそんなに愚かだとは思わない。それにネプチュンもネプチュンで普通、手作りのものを食べるかい? 一か月前にそんな事件があったのに? ましてや自分に嫌がらせをしている張本人からのお菓子を? 不自然だ。 サターン:じゃあ、会長はネプチュンが嘘をついていると言っているのですか! マーキュリー:あの、私も無罪に変えます。なんだかアース様が有罪だっていう確証がなくなってきましたし……。少なくとも、アース様がどうやってネプチュンさんの部屋にたどり着いたのか、どうやってマダリス草のチョコを短時間で作れたのかが分かるまでは。 ジュピター:アースはやっている。確実に。闇魔法使いは信用ならないッ!! ヴィーナス:それは貴方の偏見よ、ジュピー! マーズ:静かに。これで意見は三対三ね。では私から質問をしていいかしら。そもそもアースは尋問で無言を貫いている。アースが無罪ならどうして彼女は黙っているの? 自分は無罪だと主張すればいいのに。たったそれだけで終わるじゃない。 ウラヌス:これは彼女に聞いてみないと分からないけどね。僕は彼女が真実を隠そうとしているように思える。 ヴィーナス:真実? ウラヌス:アースが犯人ではないと仮定した上で、もし彼女が真犯人を知っていたら? そしてその真犯人を庇いたかったとしたら? サタン:そんな御伽噺をこの場で持ち出しても話がややこしくなるだけですよ。 ウラヌス:まぁまぁ。これに関しては証人を用意したんだ。入ってくれ。 生徒会メンバーの前に現れたのは、三人の妖精。 マーズ:妖精? ウラヌス:そう。彼らが僕にある手紙を持ってきてくれてね。それがこれだ。 手紙は、ネプチュン(被害者)がプルートゥ(アースの婚約者)を脅している内容だった。 ヴィーナス:これは……! ウラヌス:手紙によるとネプチュンはプルートゥがアースという婚約者がいながらも様々な女性と浮気しているのを知っていたんだ。そしてそれをバラされたくなければと関係を迫っている。プルートゥはこれを受けて、己の愚行を隠すため、ネプチュンを愛するフリをして彼女を殺そうとした。 マーズ:推測の話よね。 ウラヌス:そう。あくまで推測だよ。でも動機にはなるだろう? それに、ネプチュンはいくら惚れ薬を盛られたことがあったとしても、こうして強引に脅してしまうくらいに愛しているプルートゥからもらったお菓子なら警戒するどころか喜んで食べそうだなとは思ったよ。 マーキュリー:じゃあ、昨晩ネプチュンの部屋を訪れたのは女装したプルートゥ様だったってこと? でも、ネプチュンさんはアース様が犯人だって……。 ヴィーナス:例え殺されかけたとしても、ネプチュンはプルートゥ様を愛することをやめられなかったのかもしれません。そうすると、アース様を犯人にした方がプルートゥ様がアース様と婚約破棄する理由も作れますし、今の関係がバレることもありません。 マーズ:まぁ、被害者が加害者を庇うなんて考えもしないでしょうしね……。今回の調査でネプチュンの尋問に制約魔法が使われていなくてもおかしくないかもしれないわね。 サターン:し、しかしアースは妖精しか友達がいないような変人です。妖精達はそんな彼女を捏造した手紙で庇っているのでは? ウラヌス:妖精達は嘘をつかない。いや、つけない生物だというのは君も知っているだろう。神の使いである彼らがそんなことをすれば、神の教えに背いたとして死んでしまう。制約魔法の儀式にも妖精の粉が使われるくらいだ。 マーズ:……妖精達が渡してくれた証拠も、先生方に提出する必要があるわね。 ウラヌス:そう。だから僕は今回の会議だけで彼女の処遇を決めるつもりはない。独立した第三者によって妖精達も尋問した上で、ネプチュンにも制約魔法を施した尋問をした上で、皆でまた話し合いたいと思っている。 ジュピター、立ち上がる。その際、机を強く叩いた。 ジュピター:そんなこと、必要ありませんよ。あの女がやったんです! それは紛れもない事実! 皆さん目を覚ましてください! あの女は闇の魔法使いなんです! 僕の母を殺した人間と、同じ……!! しんと静まり返る会議室。皆がジュピターから目を逸らした。 何も返事をしないメンバーにジュピターは唾を飛ばす。 ジュピター:どうして誰も理解してくれないのです!! 闇の魔法使いは危険なのです! 皆だってついさっきまではそうだったでしょう! あの極悪令嬢が犯人だと誰しもが分かっていたはずだ! 目撃者? 甘味料の調理? 妖精達の証言? そんなの関係ない! あの女が闇魔法使いであること! それこそが証拠なんだ!! ウラヌス:事件当日、アースが食堂の前を通った確証もない。彼女が一日で毒入りチョコを作るのが難しい状況である。被害者の証言にもどこか矛盾がある。それを理解した上で君は、彼女が闇の魔法使いだから、彼女がネプチュンを殺したといいたいのかい? ジュピター:そうです! きっと闇魔法でなんとかしたんですよ! 再び静まる会議室。 ジュピター以外の全員が眉を顰めている。 サターン:……ジュピターの意見には私情が混ざっているとは流石の俺でも思う。だが、俺も有罪だと思っています。見てください。ネプチュンから今回の会議の資料として預かってきたものです。 ヴィーナス:これは? サターン:アースがネプチュンに送ってきた罵詈雑言の手紙です。これだけアースは彼女を恨んでいるんですよ。この手紙なんか「殺してやる」だの「呪ってやる」だのとひたすら綴られています。 ウラヌス:この手紙が証拠? 魔力印がない。本当にアースが書いた手紙が分からないじゃないか。 サターン:そりゃあ、魔力印なんて押しませんよ! なんたってこれらが自分自身が書いた手紙だと証拠を残してはいけませんからね! マーキュリー:え? マーズ:…………。 サターン:なんだ、マーキュリー。なんでそんな目で僕を見る? マーキュリー:サターン。貴方、最近成績が落ちているって本当だったのね……。 サターン:は? ウラヌス:一年生以外は気づくだろうね。サターン、君がネプチュンに夢中で勉学をおろそかにしているというのは先生方から聞いていたけれど……。二年生の前回のテスト範囲には、「焼却魔法」が入っていたはずだ。念のために説明しておくと焼却魔法は機密文書や手紙を受取人が読んだ後に自動的に安全に燃やす便利な魔法だ。そんな魔法を直近で習っているというのにアースがわざわざ見られたら都合の悪い手紙を残すと思うかい? サターン:ッ! ウラヌス:そもそも授業で習っていなくとも文書の秘密を守るために、焼却魔法を施すのは貴族の常識だ。もしアースがそんな常識を知らないだろう平民で、まだ焼却魔法を習っていない一年生だったら、犯人である証拠になったかもしれないけれど……。 サターン:つ、つまり会長はネプチュンが手紙を偽装していると思っているのですか! 確かに彼女は平民で一年生です! だが、彼女は高熱を出した俺のために薬を調合し、優しく飲ませてくださいました。そんな心優しい彼女が、そんな……!! ウラヌス:いいや。まずはしっかりと正しい情報なのか確かめろって言っているんだよ。ネプチュンの言葉のみを鵜呑みにするんじゃあない。 歯を食いしばるサターン。 ウラヌス:まぁいいさ。一旦皆落ち着こう。ひとまずお茶を飲んでくれ。 マーキュリー:わっ! このお茶、とっても希少な薬草の匂いがします! すっごく素敵! 無邪気なマーキュリーのおかげで会議の場が少し和む。 皆が茶を飲んだその時。 サターンとジュピターが同時に咳をした。 悪魔が祓われたような顔をする二人。 ジュピター:あれ? 俺は、今……。 サターン:げほっ、げほっ! 会長、この茶になにか入れたのか! ウラヌス:安心して。これはただのお茶だよ。疲労や肩こり……健康的な効果が保証されているものだ。ただ他とは違うのは、強い解毒の効果を持つってこと。 ジュピター:解毒……。 ウラヌス:君達二人、なにか悪い薬でも飲まされていたんじゃないかな。例えば……自分の負の感情をコントロールできなくなる情動薬や、特定の相手の虜になってしまう惚れ薬、とかね。心当たりない? 君達を味方にして得をする人物にさ。 ジュピター:…………。 サターン:…………。 ヴィーナス:ジュピー。貴方、そういえば先日ネプチュンに勉強を教えてあげていた時にキャンディをもらっていたわよね? 私という婚約者がありながら。 マーキュリー:そういえば、サターンもさっきネプチュンさんに薬を調合して飲ませてもらったとか言ってたね? ジュピター:……すまなかった。 サターン:……嘘だ……っ。  静まり返る会議室。気まずそうなジュピターとサターン。  ウラヌスが立ち上がる。 ウラヌス:二人とも、解毒による疲労があるだろう。今日の会議は中断しよう。後日、改めて証拠を集めた後に再度会議を開こう。それでは最後に現状の皆の意見をまとめようか。 マーズ:では、アースが有罪だと思う人。 誰も手を挙げない。 マーズ:……アースが無罪だと思う人。 全員が手を挙げた。サターンの手は震えていた。顔を真っ赤にしながら。 ウラヌス:では、今回の会議はここまで。皆、お疲れ様。 *** 「やけにアースを庇っていたわね」 会議後、議事録を見返しているウラヌスの傍でマーズがそう呟いた。 ウラヌスは穏やかな笑みを浮かべたまま、議事録から目を離さない。 「僕はね、極悪令嬢と噂されているから、嫌われ者だからって話し合いを放棄するような生徒会にしたくなかっただけだよ。二名は薬を盛られていたから仕方ない部分もあったけどね」 「そう。……あくまで、生徒会のためってことよね?」 「あぁ、そうだよ」  マーズは無表情だったが、婚約者であり幼馴染であるウラヌスにはその顔が少しだけ緩んだことを見抜いていた。そしてにやける口元を抑えながらも、議事録から顔を上げ、愛しい婚約者を抱き寄せる。 「もしかして嫉妬してくれたのかい?」 「……生徒会に私情をもちこまないわ」 「でも今は会議中じゃない。そうだろう?」 「…………」  ゆっくりと頷き、恥ずかしそうにウラヌスの胸に顔を埋めるマーズ。  ウラヌスはそんな彼女に己の心臓が昂るのを感じながら、細いその体を力いっぱい抱きしめる。 「ふふ、なんて可愛いんだ、僕の婚約者は! 僕は幸せ者だなぁ」 「……馬鹿」  その後、生徒会室では二人が誰にも邪魔されない幸せな時間が流れたのだった……。 <了>
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