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社長の涼しい目元に、言葉に表しようのない憂いが伴ったのを見てしまった。
「神城社長」
そこでノックと同時に倉林さんの声が聴こえた。
「どうぞ」
喪服からビジネスカジュアルへと着替えた彼女が一礼して入ってくる。
「午後4時訪問予定だった【ビジターエンターテイメント】の猪又様が時間を繰り上げしたいとお電話がありました」
「こっちから出向くのに、繰り上げ、か」
一気に険しくなった表情で、社長が私を見た。
「鈴木さん、では先程の件お願いします」
「は、はい」
その圧に押されるように部屋を出る。
あの社長が客に振り回されることは珍しくはない。
どんなに世間に注目されようと急成長を遂げた会社の代表であろうと、大手企業の役員から見たらまだまだ ″若手″ というか若造扱いなんだろうな。
それにしても、さっき社長は何が言いたかったのか。
距離を感じさせたり、かと思えばさっきみたいな親近感持たせたり。
……やっぱりあの人わからない。
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