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弱味。
俺の弱味ってなんだろう?
自分の短所はわかっていても、弱さは他人に見せたつもりはない。
以前なら、その噂を聞いたら笑い飛ばしていただろうが、彼女と一線を超えてしまった今となってはドキリとする。
しかし、鈴木さんはけして、あの夜のことを口に出さないし、二人きりの時にも恋人ヅラなどしない。
そうなる前と態度はなんら変わらないのだ。
――むしろ、距離ができた気がする。
この前、エレベーターの中で二人きりになった時は髪に付いていたゴミ? を取ろうとして、強く拒絶されたし……。
よっぽど、俺は、ダメだったのか?
そもそも秘書に手を出すなんてやってはいけなかった。
それなのに。あの夜。なぜ、あんなふうになってしまったのか――……。
「神城社長、お車準備できたそうです」
運転手からの連絡を受けて、鈴木さんが執務室の扉を開ける。
打ち合わせや会食にも同行して貰いたいけれど、車内で何かしら警戒されて気まずくなるのを避けるべく、一人で向かうようにしているのに。
倉林さんからは、『神城社長は鈴木さんに甘過ぎます』と言われてしまった。
そうなのか。
いや。そうじゃないんだ。
俺が俺自身に甘いんだ。
「見送りはここまででいいから。デスクに戻って」
同行させずとも駐車場まで秘書に見送らせる役員もいるが、俺は望まない。
「では、いってらっしゃいませ」
入口で扉を抑えたまま、会釈する鈴木さんに視線をやる。
少しだけ見えたうなじが、細くて色っぽくて、そして頼りなかった。
『……忘れてください』
『昨夜のこと』
これ以上、嫌われたくない。
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