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唇と唇が触れ合いそうになって、反射的に顔を背けてしまう。羽根くんは、「えっ」と言って、それから、「ごめん」と、謝ってきた。
それで、少しの沈黙のあと、羽根くんは
「こないだも、いやだったの?」
と聞いた。
「……えっ」
私は思わず、羽根くんを見つめ返してしまった。
こないだ?
こないだも、したの?
羽根くんと?
私が?
「……ごめん」
違う。羽根くんとキスしたのは。
虹だ。
私じゃない。
ぐらぐらして目の前の世界が遠のいていく。
ああ、虹だ。虹がもうすぐ来てくれる。私を助けに来てくれる、私だけのヒーロー。
ふっとすれ違う気配がしたけど、私は、
「私、羽根くんのこと、好きじゃない」
腕を振り払うようにしてそう言った。
虹が、来ない。
出てこない。
「……どういうこと?」
羽根くんが不思議そうに私を見ている。
怖くなって、私はその場から逃げ出した。
その夜、私はノートにこう書いた。
虹へ
好きです。
雨より
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