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 戒が保健室に入った時、目当ての人物は室内に四つ並べられた机を前に、振り返っていた。  不思議そうにこちらを見るのに答える前に、戒はその人物よりも早く席についている二人を見て、戸惑ってしまった。  珍しい組み合わせだった。  意外そうに戒を見て、とりあえず席を勧め、手慣れた様子で室内の棚を漁り、インスタントコーヒーを淹れる準備をしているのは、この学園の国語の教師だ。  望月千里(もちづきちさと)望月千里(もちづきちさと)というその女教師は、去年までの二年間、担任だったから、完全に顔見知りだ。  姉貴分の友人で、気心も知れていたから、色々と便宜も図ってもらっていた。  その教師と共に、自分たちの向かいに座っている男を見て、何となく相談事の内容は見えた。  二十代半ばとなったこの男、速瀬伸(はやせしん)は無事医学部を卒業し、今は研修医として病院の各科を転々としつつ勉強に励んでおり、それなりに優秀らしい。  だが、小さな頃から生き物に好かれる体質で、本人が気づかぬところで、厄介な生き物の妖に好かれることもしばしばだった。  去年の夏は、昆虫の妖に好かれて憑かれ、本人は全く気付かないうちに命の危機に陥るほどにまでなり、女教師が気づかなかったら、本当に危なかったんだと、姉貴分も言っていた。  だから、今回もその手の困りごとを、無謀にも相談してきたのかと思ったのだが……。  カップを前に置かれ、軽く礼をした若者を見て、戒は眉を寄せた。  入ってきてこの若者を見た時、一瞬誰か分からなかった。  自分よりも背丈は低いが、長身で体つきも無駄がない、整った顔立ちの若者が、胡乱な目で自分を見た時、思い当たった。  髪をバッサリと斬り、小綺麗になったその姿には、あの小柄で童顔の、長髪の若者の面影はない。  だがその目だけは、変わっていない。  何かを見透かし、こちらの出方を正確に見つけてくる、そんな鋭さを込めた目だ。  この、見目がいい若者(れん)は、元相棒の姓を借りて戸籍を作り、大学受験に向けた勉強を始めていると聞いたが、何故ここにいるのだろうか?  神出鬼没だから、ここにいても違和感はないが、この二人と待っていると言うのは、少々不自然だった。  そんな疑問を持ったのは、隣に座る男子生徒も一緒だったようだ。  向かいに座る蓮より中性的で、小柄な色白の生徒は、今年入学してきた後輩の一人だ。  薄色の金髪で完璧に整った顔立ちが、先輩たちにも大人気で、お目付け役の戒の姉貴分も、その絶大な人気に驚きを隠せないようだ。
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