2人が本棚に入れています
本棚に追加
1
ゴールデンウイークが過ぎた、週初めの放課後。
高校三年となった男子が、職員室に向かって歩いていた。
梅原戒。
この三年間の学生生活を送るために貰った姓に、ようやく慣れてきたところなのに、この生活も後僅かで終わりとなる。
長いようで短い、寂しいようで安堵する、そんな複雑な思いを抱きながら、呼び出された職員室へと向かっていた。
仕事をせずに、単に学校と住処を行き来する生活が、これで終わりだと思うと寂しいが、自分の容姿を怖いという一言で遠ざける女子に、嫌な思いをする事もなくなるから、それはいいかと己を納得させつつ、職員室に呼び出される理由を思い、気を重くした。
最終進路を、そろそろ決めるように言われていたのだが、これが中々答えづらく、いい加減に書いた進路志望が通らず、呼び出される羽目になったのだ。
信じたわけではないだろうが、今年の担任は真面目な教師だ。
話が長くなりそうでうんざりしているが、姉貴分には釘を刺されているため、理由なくすっぽかすわけにもいかず、渋々向かっている所だった。
足取りが重い、大柄な三白眼の男子生徒は、暗い気持ちをそのまま表に出しつつ、足取りも重く目的地へと向かっていたが、途中の廊下で足を止めた。
目の端に映った保健室に、見知った者が入っていくのが見えたのだ。
戒よりも二年遅く入学してきた生徒で、今は一年のはずのその人物が、保健室にお世話になる事態は、大問題だ。
考えるまでもなく、男子生徒は教師の呼び出しを、すっぽかすことにしたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!