お前で我慢する

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 時計を確認して飛び起きる。今すぐに家を出ないと間に合わない。  朝ごはんは我慢しよう。講義中に腹の虫が騒ぎださなければいいが。  洗面所に駆け込むと双子の兄が鏡に向かって恍惚の笑みを向けていた。  ……またやってるよ。 「タカ、邪魔!」  肩で押しのけて歯を磨く。 「マサが邪魔」  そう言いつつ、兄の孝浩は俺の腕に自分の腕を絡めて頭を肩に乗せる。 「重いんだけど」 「いいだろ! この世に1番好きな顔が2つもあるんだぞ。堪能させろ!」  鏡に向かってニッコリ笑うタカ。俺はゲンナリしつつも歯ブラシを動かす。  兄の孝浩と俺、正浩は一卵性の双子だ。タカは自分の顔が好きすぎるナルシスト。しょっちゅう鏡を見ては笑いかけている。正直意味がわからない。俺は別に自分の顔を見ても楽しくないから。  口をゆすいで顔を洗う。後は家を出るだけ、という時に、タカが俺を逃すまいと組んでいる腕に力を込めた。 「タカ離せ! 俺、急いでるんだって」 「俺の頼み聞いてくれたら離す」 「だから、そんな時間ないんだって。3限まで講義受けたら帰ってくるから、その時聞くよ」 「分かった、絶対だからな。マサ、いってらっしゃい」  すんなり離されて手を振られた。もっと引き止められると思ったから拍子抜けだ。……そんな場合ではない。家を飛び出して大学へ向かう。  なんで必修科目が週3で1限にあるんだよ。大学に入ったら朝はのんびりできると思っていたのに全然違った。2年生になったら楽できるのか?  必死に自転車を漕いで滑り込みセーフ。酷使しすぎてガクガクの足を座って休める。  3限までを終え、帰りはのんびり自転車を漕ぐ。  タカのお願いってなんだろう。普段だったら、あれやって、とか、これやって、と頼んでくる。お願い聞いて、なんて前振りされるとちょっと不安だ。  俺たちはすっごい田舎で育った。大学は地元を離れてそこそこ栄えている街を選んだ。タカとは別の大学だが、すぐ近くにある。2人とも地元は離れたいが1人だと不安で、一緒に住める大学を選んだ。  タカはものすごくナルシストだ。そこは理解できないが、一緒にいるのは居心地がいい。  その兄弟仲に亀裂が入るようなお願いじゃなければなんでもいいんだけど。
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