19人が本棚に入れています
本棚に追加
10
特に部屋の中央に置かれたローテーブルの周りに、大量の髪の毛が落ちていた。
ローテーブルの上には、何の飾り気もない白いプラスチック枠の卓上鏡が置いてある。そして、取っ手の黒い裁ち鋏が一つ。
恐らく中津川君は、この鏡の前で自分の髪の毛を切っていたのだろう。
しかし、その量が尋常じゃなかった。
昔、テレビで羊が毛を刈られているのを見たことがあるが、正しくそれと同じような感じだった。切られた黒い髪の毛が山のように積み上がっていた。しかも、その山は三つもある。
果たして、これは全て中津川君の髪の毛なのだろうか?だとすると、短期間の内にどれだけ髪の毛が伸びたというのか?そんなことは絶対に有り得ないことだった。
他にベッドの上の枕が置いてある場所にも、大量の髪の毛の塊が渦を巻くように積み上がっていた。
余りに異常な光景に暫し呆然とする。しかし、次第に不気味さが地から足を這い上がるように上って来て、僕の背筋をゾクリとさせた。
この部屋にいるのはやばい、そう思って慌てて部屋を出ようとした時、ふと、ベッドの足元に転がっている物に気が付いた。
それは、一冊のシステム手帳だった。
僕は、そのシステム手帳を咄嗟に手に取ると、足早に中津川君の部屋を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!