10

1/1
前へ
/12ページ
次へ

10

 特に部屋の中央に置かれたローテーブルの周りに、大量の髪の毛が落ちていた。  ローテーブルの上には、何の飾り気もない白いプラスチック枠の卓上鏡が置いてある。そして、取っ手の黒い裁ち鋏が一つ。  恐らく中津川君は、この鏡の前で自分の髪の毛を切っていたのだろう。  しかし、その量が尋常じゃなかった。  昔、テレビで羊が毛を刈られているのを見たことがあるが、正しくそれと同じような感じだった。切られた黒い髪の毛が山のように積み上がっていた。しかも、その山は三つもある。  果たして、これは全て中津川君の髪の毛なのだろうか?だとすると、短期間の内にどれだけ髪の毛が伸びたというのか?そんなことは絶対に有り得ないことだった。  他にベッドの上の枕が置いてある場所にも、大量の髪の毛の塊が渦を巻くように積み上がっていた。  余りに異常な光景に暫し呆然とする。しかし、次第に不気味さが地から足を這い上がるように上って来て、僕の背筋をゾクリとさせた。  この部屋にいるのはやばい、そう思って慌てて部屋を出ようとした時、ふと、ベッドの足元に転がっている物に気が付いた。  それは、一冊のシステム手帳だった。  僕は、そのシステム手帳を咄嗟に手に取ると、足早に中津川君の部屋を後にした。  
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加