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「中津川君……南瀬だけど、入るよ」
僕は玄関の扉を開けて、一声掛けてから部屋の中に足を踏み入れた。しかし、中からは何の反応も無かった。
やっぱり中津川君は留守なのかなと思って足元を見ると、中津川君の物と思しきスニーカーが、少し乱れた状態で玄関に置かれていた。
そして、その側に渦を巻くように置かれてある黒い物……
何だろう?と思って、少し近づいて確認すると、それは黒い髪の毛だった。
そう、僕はその黒い髪の毛に見覚えがあった。
「中津川君の髪の毛?」
そう、それはバイト先で見た中津川君のロン毛だった。
しかし、中津川君は何でこんな玄関先で髪なんか切ったんだろう。失恋して、ヤケクソになって、失意に任せて切ってしまったのだろうか?だけど、切りっぱなしで髪の毛をそのままにしておくなんて……
玄関先に似つかわしくない、黒い髪の毛からは不気味な違和感が伝わって来た。それに、この髪の毛の量、一体どのくらいの長さなんだ?ゆうに一メートルはあるように思えた。
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