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僕は中津川君のスニーカーから距離をとると、玄関の隅に靴を脱ぎ、スニーカーと黒い髪の毛を避けて、恐る恐る玄関を通過した。
玄関からは奥の部屋に繋がる一本の細い廊下が伸びていた。その左側にはキッチンが、右側にはトイレとユニットバスが備え付けられてあった。
「中津川君いる?」
僕は奥の部屋に向かって、再度呼び掛けてみた。
やはり何の反応も返っては来ない。僕は最悪の事態も想定に入れながら廊下を進んだ。途中、キッチンのシンクの中の様子が目に留まる。
シンクの中には、幾つかの食器類や箸やコップなどが置かれていたが、特に大きな違和感は感じなかった。数日前迄、中津川君が普通に生活をしていたことが伺えた。
何も起こっていないでくれ。
心の中で祈りながら、僕は部屋の中に一歩足を踏み入れた。
!!!
そこに、中津川君の姿はなかった。
変わりに部屋の中にあったのは……
大量の黒い髪の毛だった。
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