Chap.1

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大崎が転校してきた日。 私の隣の席だと担任が言った瞬間、イヤな顔をしてしまった。 それを大崎に見られ、そんな私を大崎は、いつもの事だとでも言う風に諦めの表情を浮かべた。 違うの。 大崎がイヤとか、そういうのじゃなかったの。 私は、人付き合いが苦手だった。 愛嬌も無いし、話しかけたりするのも上手に出来ない。 だから転校生が隣の席にきても、校内を案内するとか、説明だとか出来ないから、イヤだなって思っただけだった。 けど初対面の、私の性格なんて知らない大崎には、勘違いを与えるには十分すぎる表情だったと思う。 だから謝罪の意も込めて、見ないかもしれない教科書を、そっと大崎側に寄せた。 机に突っ伏しながらも、顔だけ私の机の向けて、授業なんて聞いてないクセに、教科書を見つめる大崎に”律儀なヤツ”なんて、心の中で思っていた。 大崎は、とっくに手元にあるだろう、教科書を出す事はなく、だから私は、教科書を引っ込めるタイミングを逃し、今でも教科書を大崎と共有している。 それは全然イヤじゃなくて、むしろ、このまま卒業まで大崎が、教科書を持ってこなければいいって、さえ思ってしまっている。 それに今日だって、嬉しかった。 先生に私だけが注意されたのを、フェアーじゃないと、声に出して先生に言ってくれたこと。 家の近くで、待ち伏せみたいな事をしても、迷惑だって言わなかったこと。 大崎は、噂で言われてるような人では無いって、私は確信してる。 優しくて、私達と同じ、ただの中学生だ。
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