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俺はタクマを見つめ、調べた事を伝える。
「タクマ、いいのかよ、これで。嗅覚って、一番記憶に影響があるらしいんだ、だからっ」
「誰だか分かってねぇのに、サナを抱きしめろ、なんて言わねぇよな?…サナが怯えるだけだろうがっ」
この状況を抗いたいのは、俺だけなのか?
「サナが生きてて、笑顔で暮らしていけるなら、そっちの方がいい。生きてくれさえいれば…それに越した事はねぇだろ」
「お前…それでいいのか?サナが他の男と結婚しちまうんだぞっ」
「俺だって!、傍にいてぇよ、記憶なんて無くたって、サナが生きて傍にいてくれれば…けど、それは俺のエゴだろ?」
タクマの言葉は重く、そしてサナに対しての、深い愛情が篭っていた。
だから俺は、決心を固めた。
「雪村」
「ん?」
「俺は大阪に行く、悪い…もう、お前とは会わない」
「サナさんを支えるため、だよね?」
「あぁ。本当に、悪いと思ってる。お前の時間を無駄にさせた」
約12年。曖昧な関係を続けた俺に、雪村は1度も文句を言わなかった。
だから、ちゃんと責任は取りてぇって、思ってた…けど。
「無駄、なんて思った事なんて無い、私は自分の意思で大崎といたの。だから無駄なんて思って欲しくないし、言って欲しくない。ちゃんとサナさんを、支えてあげてよねっ!」
雪村は、目に少し涙を浮かべながらも、笑顔で俺に言った。
雪村との関係を解消してから、俺は店の事やマンションの事を片付けて、大阪へ向かった。
店は、タクマに譲ることにした。
忙しければ、タクマも少しは気が紛れるかもしれない、なんてのは俺の希望込みだけど、な。
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